Part.54.55.56
Part.54 レジリエントシティTOYAMA (2015 JUN. ちもんけん VOL.91)
■はじめに
研究員の町田です。今回が初めてのタウンレポートです。今年の4月は雨が多く中々天候に恵まれませんでしたが、珍しく春うららかな陽気となった4月下旬に、OECDから世界のコンパクトシティ先進5都市として紹介されました富山市を尋ねました。
■富山市の概要
富山市は、「くすりのまち」として薬業をはじめとする産業を中心に日本海側の中核都市として栄えてきました。扇状地で平坦な地形により、道路整備率が高く車での移動に適しており、昭和40年代から市の発展に伴い市街地が四方に分散して広がったスプロールのまちとも言えます。
また、近年は全国的な課題となっている急速な少子・高齢化の波は富山市にも影響を与えています。
富山市の人口は、421,953人(平成22年国勢調査)
市内の人口は平成22年をピークに減少しており、このままの推移で人口が減少すると2030年には富山市内の全人口の約3割を高齢者が占め、生産年齢人口の減少に伴い、経済の縮小化や社会保障費の増大が懸念されます。
その富山市が、OECDから世界のコンパクトシティの先進5都市として紹介された理由とは。北陸新幹線開通により活気のある富山市内を歩きました。
■主な移動手段は自動車
富山県の1世帯あたりの自動車保有台数は1,729台。これは福井県の1,771台に次いで全国代2位です。(自動車検査登録情報協会平成25年度)
平成11年に実施した富山市パーソントリップ調査によると、自動車の交通分担率は通勤目的で83%を超えます。平成11年当時の市民の移動手段は自動車に依存していると言える状況でした。
この背景には、中心街から地価の安い郊外部への人口流動が考えられます。結果的に自動車がなくては日常の生活が難しいという課題が生まれました。
この状況を背景に、鉄道、バスなどの公共交通については利用者が減少している状況にあり1990年から2015年までの二酸化炭素の排出量増加率は全国平均を超える数値を示しています。
一方、市民の約3割は自動車運転免許を有しておらず、日常の移動について不便を感じている状況にありました。
■公共交通への交通利用転換
これらの課題解決に向けて、富山市では公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりを進めています。例えば、富山駅を中心に市都心をネットワークする市内電車の利便性を強化するため、北陸新幹線開業に合わせて富山駅新幹線の高架下に停留所を設け、富山駅を核とした公共交通の強化を進めています。
自動車からの交通利用転換事例では、自転車市民共同利用システムの構築にも取り組んでおり、公共交通の活性化の推進とあわせ、CO2を2030年までに2005年比で30%削減することを目標にしています。
また、高齢者が中心市街地で気軽に買い物を楽しんでもらえるよう、市内施設の補助特典や中心市街地の商店街の商品割引特典が付与された定期券を用意しています。この定期券の効果により1日平均2,600人の高齢者が市内電車を利用しています。
■市中心市街地への定住
交通利用転換に合わせ、定住人口を増やす取り組みも進めています。市中心市街地での住宅購入、家賃助成を実施しているほか、共同住宅の建築にも100万円の助成を実施し、市中心部の住宅取得を積極的に行うことにより平成20年以降転入超過が継続しています。
■おわりに
コンパクトなまちそのものが富山市の目的ではありません。少子高齢化、都市のスプロール化による行政サービスの低下という問題に直面した時に、富山市が出した解が「コンパクトシティ」だったと言えます。
富山市がOECDのコンパクトシティ先進都市に選ばれた主な理由は、10年後に日本同様人口減少や高齢化の問題に直面するであろうアジアの都市モデル事例となる可能性があることからです。
市職員に話を伺いましたが、施策の中には失敗事例も多かったそうです。しかし、市民に対して良好な生活とサービスを提供することを目的として、地域、企業、行政が失敗を恐れずに施策の推進を行った結果が今日の富山市に繋がっていると思います。失敗を恐れずに目的達成に向けて取り組む精神。当たり前のことですが、何より重要なことであると再認識しました。
(文責:主任研究員 池田哲也)
Part.55 愛知県東栄町で移住促進に向けたフォーラム~移住者の生活感を肌で感じる授業の開催! (2015 NOV. ちもんけん VOL.92)
■東栄町における移住促進の動き
急激な少子高齢化や人口減少等に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、地方都市で住みよい環境を確保し、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくため、平成26年11月に「まち・ひと・しごと創生法」が施行され、国を挙げて地方創生に向けた取組や地方への移住促進が進められています。これまで各地で移住促進の取り組みは進められていますが、全国的に東日本大震災等を契機に、生き方や働き方などを改めて考え直す若者が増え、若い世代を中心に田舎暮らしへの注目が高まっています。
愛知県の北東部、奥三河に位置する東栄町においても地域の特性である豊かな自然や歴史文化、人材などの資源を活用しながら、移住促進などの取組みが進められています。特に最近は、空き家を所有者から町が借り受け、それをリフォームして移住者等へ貸し出す「空き家リフォーム住宅の実施」をはじめ、「地域おこし協力隊の導入」、当センターによる「交流居住の取り組み」、森林組合や町内事業所における新規雇用の受け入れなどを通じて移住者が増え、ここ数年の社会動態については、転出者数と転入者数がほぼ同数となっています。
しかしながら、田舎での暮らしは、都会での暮らしとは異なることが多く、移住にあたって不安を抱えている方が少なくありません。特に若い人が田舎暮らしを考える上でネックになっているのが「住宅」、「仕事」、「地域との付き合い」です。都会と違って、「色々な職種の雇用の場が少ないこと」、「気軽に借りられる住宅が少ないこと」、「隣近所などの地域コミュニティが濃密なこと」です。しかし、これは視点を変えれば、「新たな仕事を生み出すチャンスがあること」、「地域に見守られ、支え合いながら暮らしていける」など、都会では難しくなった暮らし方ができることです。
こうした不安を少しでも解消してもらうため、実際に田舎に足を運んで、田舎の状況や魅力を知ってもらい、移住者から移住の経緯や仕事の作り方、見つけ方、暮らし方などを学ぶことなどができるように、NPO法人大ナゴヤ大学、東栄町、愛知県の協力のもと、移住フォーラム「里山Ⅰターン者の生活大解剖~都市と田舎の生活ビフォーアフター~」を9月26日土曜日に東栄町体験交流館のき山学校で開催しました。
■移住フォーラムの開催概要
当日は名古屋市内を中心に県内各地から20~40歳代の若者を中心に13名が参加しました。最初に参加者の自己紹介からスタート。その後、実際に都会から移住された5名の講師から、移住前後での生活のビフォーアフター、田舎での仕事の探し方、働き方、暮らし方などを話していただきました。
また、東栄町内で化粧品のファンデーションの原料となる『セリサイト』採掘し、世界中の継承品メーカーと取引する三信鉱工株式会社を訪問し、三崎社長に採掘する坑道内を見学させていただきました。
さらに最後は、東栄町民の方々にも参加していただき、東栄町での暮らしの様子などを意見交換する交流会も行いました。
■まとめ
今回、講師となった移住者は「山村部で子育てがしたくて町が実施する空き家リフォーム住宅に入居し、その後持っている技術を生かして仕事をしている方」、「林業の仕事がしたくて森林組合の作業員になった方」、「事業継承をする後継者として養鶏農家になった方」、「県の事業や地域おこし協力隊をきっかけに移り住み、起業化した方」、「職人としての仕事を持って移住した方」など、移住したきっかけも、仕事の見つけ方も様々です。共通するのは色々と縁があったこと、移り住み、住民として地域活動にも積極的に関わるなど地元に溶け込んでいることです。
参加者からは「実際の話を直接聴けて田舎暮らしにリアリティが持てた。」、「同じ志向を持った方と知り合えて良かった。」など、実際の移住者から生の暮らしや仕事の状況を知ることができ、田舎暮らしをしてみたいという気持ちが高まったようです。
移住フォーラムを現地で行うことは参加者を確保する上で不安がありましたが、実際に若者を中心に参加者も集まり、東栄町のことを知る人が増え、色々な方々と交流し、田舎暮らしの魅力を伝えることができたかと思います。
今後、移住促進に向けて、住宅、仕事などを一括して相談や紹介等ができ、移住の不安を解消できるサポートを行うとともに、住民や移住者等が気軽に話し合える場づくりを行うなど、移住から定住に向けた体制づくりが求められます。
(文責:主任研究員 藤 正三)
Part.56 1泊2日しもやま里山ホームステイを開催しました!! (2016 JAN.ちもんけん VOL.93)
■しもやま里山ホームステイとは
しもやま里山協議会(以下、協議会。)は、豊田市下山地区と岡崎市下山学区を舞台に、自然に寄り添い、地域の人同士が支え合う「里山暮らし」の魅力を伝える活動をしています。平成21年11月に発足してから、田植えや稲刈り、炭焼きなど約50回のイベントを開催し、延べ1,600人に魅力を伝えてきました。
イベントをはじめて5年が経過した頃、メンバーから「次のステップとしてもっとしもやまとじっくり関わってくれる仲間を増やしていきたい」「イベントではなく日常を伝えたい」という声があがり、新たな取り組みを検討することになりました。
■しもやま里山ホームステイとは
メンバーが実現したい目的、少し頑張れば実現可能なこと、地域にあるものを使ってできることを重ね合わせて考えた取り組みが、1泊2日しもやまの住民の家で各家庭の日常を過ごす、しもやま里山ホームステイです。
企画運営には名古屋市で名古屋をおもしろくする人を増やす活動に取り組むNPO法人大ナゴヤ大学(以下、大ナゴヤ大学。)にもご協力いただき、特に都市部の若者をターゲットに実施しました。
そして、協議会メンバーをはじめ呼びかけに応じた5軒のホストファミリーのところに、大ナゴヤ大学を通して申し込みのあった名古屋市や豊田市在住の20~30代の4人の若者と1組の家族が来てくれました。
■家庭の魅力が詰まった1泊2日
1日目の午前中はホストファミリー、ゲスト、地域住民が一緒に間伐整備を行い、午後から各家庭にわかれて過ごしました。
各家庭では、その家庭ならではの日常を大切に、参加者と話し合いながら何をするかを決めました。家庭の魅力がつまった内容を紹介します。
○世界を股にかける炭焼き名人の高木田家は、炭焼き材料の薪割りや地域のおじいちゃんとのバーベキュー
○185年続く造り酒屋の柴田家はお酒のラベル貼りや干し柿づくり
○協議会会長の横山家は、トラクターでの田おこしや地域住民で運営する朝市のお手伝い
○秘密基地作りにいそしむおちゃめな小原家は、川釣りや地域のお社の新嘗祭の手伝い
○木工が得意な川合家は、畑の作物収穫とブランコづくり
ゲストもホストも徐々に緊張がほぐれて、夕食を囲む頃にはとてもよい雰囲気になっていました。
■しもやま里山ホームステイを終えて
1泊2日を終えて、参加者からは「想像していた田舎暮らしと似ているところも、違うところもあった。」、「下山が大好きになった。また遊びに行きます。」、「参加者がお互いに自分のホストファミリーを自慢し合う関係、親戚みたいな関係ができた。」という声をいただきました。
「日常の里山暮らしを伝える」という一つの目的は果たすことができたとともに、ホストファミリーや地域の方とゲストとの間によい関係性が生まれたことは地域の自信にもつながったのではないかと思います。
■そして、これから・・・
しもやま里山ホームステイは1泊2日が終わったら終わり。ではありません。メンバーは「もっとじっくりと関わっていきたい」と思っています。今、このしもやま里山ホームステイをきっかけに出会った人たちとの関係を深めていく企画を温めています。
また、まちづくり情報誌でも報告していきたいと思います。
(文責:宮原 知沙)