H30.第10.11.12講
第10講 テーマ 『公共資産の利活用 ~多様で魅力的な都市空間の演出』
2019年1月15日(火) 13:30~16:30
「AI・RPAの導入による地方自治体の働き方改革」
東海大学政治経済学部政治学科 教授 小林 隆 氏
限られた人員で新しい行政サービスに対応するには、AIやRPA(Robotic Process Automation)の導入は不可避だと思います。世界的にAIはどんどん進化していますが、我が国はその活用が極端に遅れています。RPAとは、人間が行う全てのパソコン作業をロボットにより自動化する技術のことで、パソコンを使うあらゆる作業にロボットを導入することができます。
各地でAIを使った行政サービスの取組みが始まっていますが、多くは市町村内のシステムに止まっています。AIはデータを集めれば集めるほど処理のノウハウが蓄積されて高機能になるため、自治体間の連携が大切です。民間データも含めることができればもっと精度が向上し、コストダウンも期待されます。機械学習を基本とするAIやRPAと、自己言及的・閉鎖的になりがちな人間の違いをしっかり理解したうえで、AI・RPAの導入による地方自治体の働き方改革が必要です。
RPAを活用した業務改革
熊本県宇城市 総務部 市長政策室 行政経営係 主幹(係長) 溝上 敬浩 氏
平成17年に宇土郡、下益城郡の5町合併により発足した宇城市は、人口減少や行政改革に伴う市職員数の削減が進む中で、熊本地震により被災し、復興業務を始めとするマンパワー不足が顕著となりました。そこで平成29年度には、総務省の業務改革モデルプロジェクトの指定を受け、RPA等を活用した窓口業務改革をスタートさせました。全庁にわたる業務の棚卸を行い、実証実験としてふるさと納税業務において、これまで手作業で行っていたインターネットによる寄付情報の取り込み事務にRPAを導入しました。
平成30年度からは、ふるさと納税業務のほか、住民異動届、職員給与、会計業務、後期高齢者医療など、RPAによる自動化の範囲を拡大しています。導入により付加価値の高い業務に人と時間の再配分が可能となりました。今後に向けてコストダウンや精度を高めるため、手書き書類のデジタル化、業務プロセス等の標準化、利用範囲の拡大によるクラウド化などが課題となっています。
第11講 テーマ『市民団体の自律性を高める ~ガバナンスの効いた組織づくりを支える』
2019年2月4日(月) 13:30~16:30
地域協働型のインフラ管理
岐阜大学工学部 教授 倉内 文孝 氏
笹子トンネル天井板崩落事故を契機に、老朽化する社会インフラのメンテナンスが大きな行政課題となっています。市町村の土木系職員が減少し、土木予算が縮小する中で、社会インフラの管理責任を行政のみで果たすことができるでしょうか。従来の行政主導の管理体制を見直し、地域内で維持管理サイクルが成立するよう各主体の役割や連携方法の検討が必要です。公共・民間の土木技術者のスキルアップを目指す取り組みに「ME」(社会基盤メンテナンスエキスパート)があります。養成講座を受け、幅広い形式知と暗黙知を併せ持ち、決断力と行動力を持つ技術者集団がMEです。
共助社会時代に求められる、地域協働型インフラ管理のモデル事業として、中津川市神坂地区の事例があります。身近な社会インフラの協働点検にMEのほか、住民、行政等が参加し、住民目線でインフラ診断の結果を取りまとめることで、行政だけに止まらないインフラ管理の可能性も出てきます。
インフラのまち医者MEの役割―中津川市神坂地域での協働点検―
丸ス産業株式会社 常務取締役(MEの会 事務局) 加藤 十良 氏
社会基盤メンテナンスエキスパート(ME)は、社会人の学び直しを通じて、他セクターや専門家との協調、統合により、専門化した技術社会で多角的に構造物を評価できる地元の総合土木技術者たるインフラの「まち医者」を目指しています。ME認定後も継続して研さんと相互協力、社会貢献の場を提供するため、養成カリキュラム修了者は各期で同窓会(MEの会)をつくり、活動を継続しています。
中津川市神坂地域における活動もそのひとつです。過疎化と高齢化が進む中での地域づくり、地域の自然災害の危険を学び減災力を高めるため、住民とMEが一緒に取り組んでいます。MEはプロボノとしての活動、MEの会の人的ネットワークを活用して個々のMEが持つ専門性を統合し、専門機関への橋渡しも含め、問題解決のお手伝いをしています。
協働コーディネーターの役割 -中津川市神坂地域での取り組み-
パブリック・ハーツ株式会社 代表取締役 水谷 香織 氏
社会の合意形成とは、政策や計画作成、事業実施を行う際に多様な利害関係者の満足、納得を目指して前向きに話し合いをするプロセスです。
協働コーディネーターの役割は、①関係者同士の合意形成を促進することであり、基本手順に沿い社会的な課題に対して行う合意形成で様々な関係者の参加型の政策立案・計画策定プロセス。②コミュニケーション・プロセスの設計、公共施設管理者やMEの会、地域協議会、区長会、住民など多様な利害関係者の企画から協働点検、対応等各段階の潤滑油としての役割。③地域の意思決定としての将来ビジョンへの位置付け、協働点検等の成果を未来志向の地域の姿として住民に描いてもらう。その際、コーディネーターとしては、「基本的な考え方」を押さえること、「聴く」姿勢、「合意形成技術」の習得、実務は「段取り八分」などの諸点に留意することが大切です。
第12講 テーマ『日南市の取組みと今後の行政経営』
2019年3月25日(月) 14:30~16:30
日南市の取組みと今後の行政経営
宮崎県日南市長 﨑田 恭平 氏
人口減少のほか、合併特例債などの歳入減少が進む中で、これまで以上に施策の選択と集中が必要です。自治体においても市民と職員が明快な理念を共有することが大事です。私は日南市の歴史から学んだまちづくりのコンセプトを「創客創人」の四文字に集約しました。創客創人とは、今ある資源から、人々が望む価値を見出し、それを実現する製品やサービス等を創り出し、新しい需要=客を創り、その客を幸せにする仕組みを創ることのできる人を育てることです。
「創客創人」を具体化するため、コンサルタントに計画書だけを提出してもらうのではなく、日南市に住むことを条件とした民間コーディネーターを登用しました。その民間コーディネーターと市職員がチームを組み、油津商店街の再生とマーケティング、飫肥(おび)城下町の再生等を進めています。「創客創人」のコンセプトのもと民間の専門家や行政だけでなく、子どもから大人まで市民みんながまちづくりの意識を共有できたことが大きなパワーとなっています。