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タウンレポート

Part.62

Part.62 のどかな中山間地域で根付いたフットパスの取組 (2019 MAR. ちもんけん VOL.103)

 

熊本県美里町(みさとまち)。熊本市から車で1時間弱、熊本空港からもほど近い、郊外の農村地域で2012年にはじまったのが、「フットパス」の取組みである。

 

フットパスとは、「森林や田園地帯、古い街並みなど地域に昔からあるありのままの風景を楽しみながら歩くこと【Foot】ができる小径(こみち)【Path】」と定義づけられ、たとえ自然の歩道が農家の敷地やお屋敷の庭の一部などが私有地であっても、市民は自由に歩ける権利(通行権)が守られているというイギリスでの考え方に基づいている。

 

本場であるイギリスでは、フットパスのコースが国土を網の目のように縫い、国民的レジャーとして週末や休暇の時期になると、田舎はウォーキングを楽しむ人たちで溢れる。その規模は、フットパス人口1,367万人、総延長241,600km、経済効果1兆2315億円とも言われている(出典:The Ramblers)。最近では、「くまのプーさん」が実写映画化された時に、情報番組等で作品の舞台となっている森が紹介されていたが、あれもフットパスのコースの一つである。

 

現在、美里フットパス協会の事務局長である濱田孝正さんがそのフットパスに着目し、地域住民に紹介したのが2011年。その取組みに共感したが、地元の土地改良区で勤める傍ら、地域の資源を紹介する活動をしていた井澤るり子さん。

 

お二人を中心に地元商工会が参画し、フットパスのコースづくりを始めた。「地域の人たちが守ってきた集落の中を歩かせていただく」という美里式フットパスとしての共通理解のもと、地元の区に対して協力の働きかけを行ってきた。その際、フットパスは交流人口の増加や滞在時間の延長も目的ではあるが、何よりも地域住民の生活や生業といった日常的な営みを邪魔しないことを重視した。地域として大事だと思っている資源や眺望をルートに落とし込み、起点・終点となる場所を駐車スペースとトイレの確保に留意して、所要時間2時間前後のコースを作り上げていく。なお、現在、美里町には15のコースがあり、それらのマップが有料で販売されている。

 

実際に、コースを歩かせていただいた。仕事柄、多くのまちにお邪魔し、街歩きをしているが、ここでしか見ることができない、とっておきのスポットはせいぜい数か所で、それはとても魅力的なものである。しかし注目すべきは、それ以外の多くの時間を過ごす集落の中や周辺を歩いているときに、何よりも‘こざっぱりしているなぁ’ということが印象深かった。普通なら草が生い茂っているような法面や道路脇の土手が、草が刈られきれいなっているし、農地や個人宅の庭先・農機具置き場がきれいに整頓されている。フットパスの効果として表れている、‘普段レベルでのおもてなし’にとても素敵な後味を感じた。

 

 活動以前の美里町への観光客といえば、江戸後期に架けられた36基の石橋など点在する観光スポットを訪れる程度だった。これらの資源の再PRや短期的なイベント開催で観光振興を行っても自動車の交通量が増えるだけで、滞在時間が短いままとなってしまう。一方、フットパスであれば、ゆったりとした時間・空間の中で滞在時間が確保される。それ故に、地元の農家や商店主はゆっくり、深く来訪者と交流することができ、結果として消費につながっている。

 

また、フットパス協会が主催する年間10回程度開催されるフットパスイベントは、継続的な参加をしている‘美里ファン’‘フットパスファン’がいるうえに、おもてなしの機会としてコース上の地域にとっては、晴れの舞台であり、その活動を通じて、高齢化している集落の住民同士の交流の場にもなっており、生きがいにつながる活動になっている。

 

(文責: 主任研究員 河北裕喜)