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H29.第7.8.9講

第7講 テーマ 「子どもの貧困問題とその対策 ~ 待ったなしの問題にどう対応するか」

2017年10月27日(金)13:3016:30 昭和ビル 9階ホール

「子どもの貧困問題とその対策 ― 子どもにやさしいまちづくり ―」

 東洋大学社会学部教授・同社会貢献センター長  森田 明美 氏

 

 我が国では、いわゆる絶対的貧困者は少ないが、OECDの定める相対的貧困者は多く、ひとり親世帯の貧困率はOECD加盟34ヶ国中最下位。子どもの権利の明確化・児童相談所機能の強化・虐待の発生予防等の課題は待ったなしです。

虐待の増加、貧困化、地域環境の悪化、ひとり親家庭の増加といった子どもたちが抱える家庭との確執の実態を正しく認識する必要があります。子どもが家族・親族からの支援が受けにくい現状にあることに対し、子どもの貧困対策の不備と保護者支援の限界などから、子どもの貧困問題は解決していません。①子どもの声が届きにくい、②貧困や家庭内の問題は見えにくい、③福祉問題を抱える人は支援につながりにくい、④福祉施策は利用しにくい、⑤子ども施策の効果は見えにくいなど、子どもの貧困に起因する諸課題の解決のため、子育て世帯の地域での暮らしを支える予防と回復支援により、多様な子どもと子育て家庭と暮らす地域の構築、結果として貧困の克服を実現する自治体の取組みが求められています。

「未来へつなぐあだちプロジェクト ―足立区の子どもの貧困対策―」

 東京都足立区子どもの貧困対策担当部長  秋生 修一郎 氏

 

 これまで足立区は負のイメージで語られることが多かった。健康・治安・学力などの根底にある共通の原因「貧困の連鎖」を絶つため、足立区は次代を担う子ども支援に取り組んでいます。低所得者対策=子どもの貧困対策ではなく、より幅広く子どもに寄り添う施策です。まちづくりや産業施策も関連があります。「貧困」という言葉のアレルギーを乗り越えることも大切な視点です。

 

 子どもの貧困対策実施計画(平成27年度)では、①生まれ育った環境に左右されない、②子供たちの自立、③子供の成育環境全般の複合的な取組みを基本理念としています。全庁的な取組み、貧困の予防・連鎖を断つ、学校のプラットフォーム化などを図りつつ、教育・学びの環境整備、健康・生活面での切れ目のない支援、国・都への働きかけと合わせ、地域との連携等による推進体制の構築。施策評価は、全国学力調査の平均正答率、都立高校の中途退学者数、養育困難世帯の発生率・解決率等、24の指標で評価しています。

第8講 テーマ 「地域課題と向き合うソーシャルデザインの可能性 ~岡山県総社市長が語る「障がい者千人雇用」の挑戦から~」

2017年11月27日(月)13301630 名古屋栄ビルディング 特別会議室(12階)

対談                                                      「社会的な課題の解決と同時に新たな価値を創出するソーシャルデザインの可能性 」

   岡山県総社市 市長  片岡 聡一 氏

 名古屋芸術大学芸術学部芸術学科 准教授  水内 智英 氏

 

◆本講は、普段のゼミナールと形式を変え、ソーシャルデザインの取組み事例として、岡山県総社市の「障がい者千人雇用」を具体例に、講師2人の対談とフロアーからの意見などを交えたゼミナールを進めました。自治体の政策実現手法として注目されるソーシャルデザインについて、自治体首長の事例紹介も含め、理解を深めることができたと思います。

  

○地域課題と向き合うソーシャルデザインの可能性(話題提供 水内智英氏)

 

行政におけるソーシャルデザインとは何か、デザインを行政、デザイナーを行政職員と置き換えたらわかりやすい。デザインは半歩先の未来へ投企すること。①未来の可能性を支える環境づくりと、そのあり方を共有可能な「実像」として描く。②デザインは障がい者雇用を始め、社会の困難な状況の中で種を蒔くことであり、不確実な未来に向けたプロセスをラフな形で描く。③取組みの過程で関係者の認識や意識に変化が起こり、不可能と思っていたことが可能と思えるようになる。④関係者一人ひとりがそれぞれの立場で関わる仕組みが用意されています。

 

 未来を描くことが困難で、利害関係者が複雑に絡み合う今日社会ほど、行政にソーシャルデザインが必要とされているときはないと思う。

 

  ○「障がい者千人雇用」の挑戦(話題提供 片岡聡一氏)

 

私の政治家としての使命は、身体的、地域的マイノリティなどの弱者に徹底して寄り添うことだと思っています。まちの中に住む人、郊外に住む人、健常者も障害者も納める税金の大枠は同じ。ただ、税の配分は均等である必要はないと思う。

 

  市長就任後に始めた「障がい者千人雇用」を始め、1乗車300円で郊外部のお宅と市中心部の目的地を810人乗りワンボックスカーを使い1時間おきにデマンド方式で結ぶ「新生活交通・雪舟くん」、人口減少が続く郊外部の小中学校・幼稚園で特色ある教育を行う「英語特区」「新教育特区(音楽・体育)」などが取組み例です。費用対効果からすれば、施策の多くは市中心部や健常者にシフトしがちですが、ハンディキャップを是正するために軸足をどこに置くか、勇気をもって施策のデザインを描く人間が必要だと思う。

 

  ○対談

 (水内)市長が進めてきた施策において、大きな変化が動き出すターニングポイントとなったのはどういうところか。

 

(片岡)提案に対し、当初できないと言っていた職員自らが動き実践を積み重ね、信頼関係ができることで、職員が施策実現に自信を持つようになった。施策の拡大に当たって、予算確保が必要なときには議会や市民に対し、その必要性を訴える立場に変わっている。

 

(水内)デザイン(政策)は、どこまで社会の中に入っていけるか。

 

(片岡)施策はデザイナーだけではできない。行政で言えば、あの人(リーダー)と一緒にやりたいという職員との関係を作り上げていくことが必要。大きなビジョンを掲げるだけでは前に進まない。施策の細かな部分での地道な取組みの積み重ねが不可欠です。目標となる施策があって、職員提案も含め多様な施策を組み合わせているものも多い。

 

(水内)ソーシャルデザインは一人ではできないものですね。多くの人を巻き込んで社会を変えることが必要。リーダーとなる人のポジティブな姿勢には、人を巻き込む力がある。

 

(片岡)これからの地域づくりには、金太郎飴のような施策への補助金ありきではなく地域の独自性を発揮する取組み、地域間の競争を促すことが必要だと思う。地域の独自性の強化と地域間競争は、市民レベルを高めます。さらに地域独自の施策を展開する裏付けとして、それぞれの自治体が自前の財源を確保することも忘れてはならない。

第9講 テーマ 「地域の魅力づくりと文化・アートの役割 ~ これからの文化行政の可能性」

2017年12月7日(木)13301630 名古屋栄ビルディング 特別会議室(12階)

「 地域の魅力づくりと文化・アートの役割 ~ これからの文化行政の可能性」

 鳥取大学地域学部特命教授  野田 邦弘 氏

  

 20世紀が国家の時代であったのに対し、21世紀は都市の時代と言えます。地域の自立的取組、既存資源を活用したソフト施策、地域独自の新産業育成、官民協働など、地域オリジナルの取組みが求められています。従来、文化活動と行政の間には多くの相反する部分があった。それに風穴を開けたのが、個性的な文化の根付いた地域社会の創出をめざす1970年代の行政の文化化の動きです。また、欧州では1985年から特定の都市を選び、1年にわたる集中的な文化事業を行う文化首都制度が始まり、地域経済の活性化、知名度向上、シビックプライドの形成などの効果を挙げています。

 脱工業化、サービス産業化などを背景にして創造都市論が台頭。官民の枠を越え、多様な文化芸術活動を通じてクリエイティブ人材の育成・移住による付加価値の高い創造産業が生まれ、地域の活性化につながっています。20176月に文化芸術基本法が改正され、その中で文化・芸術を活かしたまちづくりが明記されています。

「可児市文化創造センターの挑戦」

岐阜県可児市文化創造センター館長兼劇場総監督  衛 紀生 氏

 

  可児市文化創造センターでは、「アーラまち元気プロジェクト」をはじめとする社会包摂型劇場経営を行っています。地域共生社会を実現するための社会機関としての活動を劇場経営の基本姿勢とし、経済的・社会的・心理的に劇場から遠くにいる人たちに果実を届けるように努めています。そのためには、ハコモノ行政として批判の対象とされてきた従来の劇場運営を取り巻く常識を打ち破らなくてはなりません。

 社会的に孤立しがちな人々の生きる意欲を醸成し、そのポテンシャルを社会発展に反映させる仕組みが「社会包摂」と言えます。文化芸術には、共創性という複数の人間が関わりあって新しい価値=仲間・コミュニティをつくる力があります。市内の様々な機関と連携し、「私のあしながおじさんプロジェクトFor Family」をはじめ、音楽や演劇を通した年間467回のプロジェクトを実施、社会的に弱い立場におかれている人々を精神的・社会的に孤立させない「まち元気」をめざす活動を展開しています。