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バックナンバー VOL.83~85

オープンストリートマップを使った自由な地図づくり                              (2013 APR. ちもんけん VOL.83)

 Open Street Map(オープンストリートマップ)の取り組みを推進している名古屋工業大学グリーンコンピューティング研究所プロジェクト教授の早川知道氏にオープンストリートマップの活用方法や事例などを伺ってきました。

 

1.オープンストリートマップとは

オープンストリートマップは、「自由な」地理情報データを作成することを目的として、2004年にイギリスではじまった世界規模のプロジェクトです。

 インターネット上には様々な地図サービスがあり、多くの人に利用されていますが、これらの地図には著作権が設定されています。そのため、有償・無償の地図に関わらず、その多くは無断複製や改編などの行為が禁止されています。

 そのようなことに疑問を抱いたイギリスのスティーブコースト氏(Steve Coast)が、「自由な」地図として誰でも簡単に地図を作成することができ、無料で地図の編集や利用ができるシステムとしてオープンストリートマップを開発しています。これはインターネット百科事典である「ウィキペディア (Wikipedia)」の地図版とも言えます。

 このオープンストリートマップの特徴は、誰でも自由に地図を描け、更新も可能なことです。また、操作が簡単なことからから多くの人の力が合わされば地図の精度と情報量を高めることも可能です。そして、これらの地図データ自由に活用でき、様々な独自の情報も加えて発信することができることです。

 なお、現在、世界中に100万人の登録ユーザーがおり、そのうち20万人がマッパーとして地図を描いているとのことですが、日本ではまだ4,000人程度のマッパーで地図づくりが行われている状況とのことです。

 

2.オープンストリートマップの操作方法

 オープンストリートマップでは道路や建物などを線、面のオブジェクトで簡単に描くことができます。そのオブジェクトには経度や緯度、形状などの地理情報データだけでなく、道路の情報や店の情報など、様々な情報をタグとして付加することができます。そのため、おすすめのスポットやリアルタイム情報なども追加することができます。

 地図作成にあたっては主にGPSデータを基に作成・編集します。GPSロガー(GPSを使って移動経路を記録する機械)などで取得したGPSデータをサイトに取り込み、トレースしながら描いていきます。道路であればウェイと呼ばれる線を描き込み、建物などであればノード(点)、クローズドウェイ(面)を描き込んでいきます。そして、描き込んだ線などが何を表すものなかを説明するため、タグ情報を入力していきます。

 以上のような作業で新しい道路や建物などを追加していくことで地図が出来上がります。

 

3.オープンストリートマップの活用事例

 オープンストリートマップを利用し、他のデータと組み合わせ、独自のサービスを展開している事例があります。例えば、バリアフリーマップを作成したり、災害情報を収集して整理してマッピングしたりしています。

 また、愛知県東三河総局新城設楽振興事務所では、奥三河観光案内マップとしてオープンストリートマップを活用したマップづくりが行われています。

 「奥三河地域の電子地図をみんなで作りましょう!あなただけが知っている奥三河のとっておきのスポットを追加してください。」と呼びかけ、多くの人に利用してもらえるように操作方法などのマニュアルなども作成・公開してオープンストリートマップの普及に努めています。特に山間地域の電子地図は情報量が少ないことから、道路や建物なども追加・編集などしながら観光情報を盛り込んでマップを作っており、他の電子地図に比べても情報量の多い地図になっています。

 

4.今後について

 オープンストリートマップはいかに多く人が関わり、充実した情報を追加できるかが鍵となります。また、今後は情報の更新などのメンテナンスも必要となるなど、持続可能な仕組みにしていくことが求められます。そのため、地域コミュニティなどにおいて、地域にとって必要な情報、例えば災害上危険な場所、AEDの設置場所などを受発信できるデーターベースとして上手く利活用できるようにしていくことが必要です。それには子どもやお年寄りの方でもわかるような手引書の作成や講習会の開催など、地域での普及活動を行いつつ、利用する人、地図を描くマッパーを増やしていくことが求められます。

 今後はオープンストリートマップを多くの人で育てていきながら、コミュニティ活動のツールとして大いに利活用されることが期待されます。

 

 

 

(文責:主任研究員 藤 正三)

自治体が追求する住民の幸せとは (2013 JUN. ちもんけん VOL.84)

■幸せリーグの設立

 6月5日に、全国52自治体からなる住民の幸福実感向上を目指す基礎自治体連合、通称「幸せリーグ」が設立された。発表された宣言文では、自治体は住民の幸福の追求という共通の使命を有し、その志を同じくする基礎自治体がお互いに高め合いながら、誰もが幸福を実感できる地域社会を築いていくことを宣伝している。

 宣言文にもあるように、自治体の使命は住民の幸福の追求にあることは言うまでもないことであるが、その実現方策として、これまでの行政は、経済成長による経済的基盤の強化と福祉の充実に力を入れてきた。

 しかし、人口減少時代となり、今後多くの地域では大きな成長は見込めなくなっている。また、財政状況が厳しい中で、これ以上福祉施策を手厚くすることも難しくなっている。一方で、行政として、目に見える成果がほしいと考えるのは当然のことであり、そこで、幸せの国・ブータンの総幸福量に注目し、住民の幸福度を示す指標を行政の目標指標にしようとする試みが各地で広がってきている。これが、今回の「幸せリーグ」設立の背景となっている。

 

 ■幸福の指標化は可能か

 幸福度の指標化については、国内では荒川区が平成17年から「荒川区民総幸福度(グロス・アラカワ・ハッピネス:GAH)」を研究し、平成23年度に中間報告を出している。この報告では、区民アンケートで「幸せを感じているか」を調査した幸福実感度のほかに、健康・福祉、子育て・教育、産業、環境、文化、安全・安心の6つの分野ごとに合わせて46項目の指標を設定している。アンケートによる幸福実感度の指標を設定しているものの、やはり一つの指標では測ることができないために、結果として数多くの指標を設定している。

 行政が住民の幸福度を高めることを目標に掲げると、それを示す指標がほしいと考えるのは当然のことであるが、同じ環境下にあっても幸福感は個人の意識によって多分に異なるため、客観的指標化が難しいと言わざるを得ない。日本の行政は総合行政であることから、幸福度指標も、目指す目標に向けて各分野の施策の進捗状況をチェックする指標として捉えた方が良いのではないか。

 その場合、従来の行政評価との違いはどうするのかという疑問が出てくるが、行政評価の指標は、行政の取組実績を示す客観的な指標群で構成し、幸福度指標は住民の主観的評価の指標群で構成するというように指標を再編してみたらどうであろうか。

 

■江戸時代の日本とブータン

 昨年の市町村ゼミナールの中で千葉大学の広井先生が、“アメリカの総領事ハリスは、「非常に幸福に見える、開国していくのが果たしてプラスになるのか疑わしい」とか、イギリス人のアーノルドという人は、「これ以上、幸せそうな人々はどこを探しても見つからない。『おはよう』『おはようございます』とか、『さようなら』というきれいなあいさつが空気を満たす」と書いています。”と江戸時代の日本を外国人が評価していることを紹介していた。

 また、幸せの国と言われていたブータンも、これまでの鎖国政策から開放政策に転換した結果、グローバル市場の影響から逃れられることができずに、消費熱が高まる一方で、働いていない若者が増えているという報道もみかけるようになり、幸せの国が揺らぎ始めている。

 

■人と人の関わりがつくる豊かな時間

 物や情報の消費が一定程度進むと、物と情報の拡大だけでは幸福度が高まらない。江戸時代の日本やブータンの例からも、安定した人と人との関わり中で、精神的な充足感を感じ、豊かな時間を過ごすことができることが人の幸福にとって重要だと思われる。その意味で、地域社会の中で人と人を関わることができる心地よい居場所をつくることが、住民の幸福実感を高めるうえで重要ではないかと思われる。

  今後、高齢者が増えると、一日の大半を地域で過ごす人が増えてきます。こうした地域で過ごす時間をいかに豊かな時間にするかが、住民の幸せの実現の鍵を握ると考えられます。それは、福祉だけで実現するものではなく、豊かな人と人の関わりができる空間と機会づくりの両面からの地域づくりが必要となるのではないでしょうか。

 

 

 

(文責:研究所長・調査研究部長 杉戸 厚吉)

綾部市古屋集落 5軒6人のむらおこし (2013 OCT.ちもんけんVOL.85)

■綾部市水源の里条例

 京都府の中央北寄りに位置する綾部市は、過疎高齢化で存続の危機に直面している集落を「水源の里」と名付け、

集落の維持・存続に向けた取組を強化するため、平成18年(2006)12月に全国に先駆けて、「綾部市水源の里条例」を制定しました。

『上流は下流を思い、下流は上流に感謝する』とする綾部市の理念は、全国水源の里連絡協議会(平成19年11月設立)の理念となっています。

 さて、綾部市の水源の里条例は平成19年4月に施行されましたが、条例は5年間の時限条例でしたので、平成19~23年度の5ヶ年の期間限定で振興策が展開されることとなりました。

具体的に事業の対象となったのは、日本海へと流れる由良川の最上流に位置する5つの集落(市志、古屋、栃、大唐内、市茅野)で、それぞれに振興策が展開されていきました。

綾部市の水源の里条例は、すでに5ヶ年が経過し、平成24年4月からは、対象集落の拡大を行うなど、新たな「水源の里条例」として施策が展開されています。

 

■5軒6人の古屋集落

 平成19年に条例が施行されたとき、古屋集落は世帯数5世帯、人口7人でした。現在は6人ですが、その人口構成を聞くと驚かされます。6人のうち男性は1人(自治会長60代)で、残る5人は82歳から89歳と、すべて80歳以上のおばあちゃんです。

存続が危ぶまれる状況にあることは間違いありませんが、廃村にはしたくないという一途な思いは、みんなの気持ちの中にあったそうです。

平成19年4月に、水源の里条例の対象地域となったことが追い風となり、平成17年に東京から古屋地区にUターンしていた現在の自治会長が働きかけ、おばあちゃんたち5軒6人のむらおこしがはじまりました。

 

■小さな産業 栃の実の活用

 古屋地区は古くは天領で、天皇家を守る武士たちが居住していたという歴史があり、江戸時代には70軒ほどの民家があったそうです。集落の共有林には樹齢100年以上の栃の木の群生地があり、シンボルとなる巨木は樹齢1000年と伝えられています。

 6人が話し合いを重ねた結論は、この先祖が残してくれた栃の木を活用した特産品の開発でした。

共有林の維持管理や栃の実の収穫は、とても6人だけではできません。ボランティアを受け入れることにより、人手不足という難題をクリアしました。

 約一年をかけて、おばあちゃんたちが特産品の試作品づくりを繰り返し、ボランティアの方々には何度も何度も試食をしてもらったそうです。

 その成果が、「とちの実おかき」と「とちの実あられ」という古屋地区のオリジナルの商品となりました。現在は、道の駅などで常時販売されるほか、JR京都駅前で開催される朝市でも販売されています。これだけをみると小さな産業ではありますが、これが大きな大きな意義のある活動へと発展しています。

 

■応援団「がんばろう会」の設立

 当初は、栃の木を鹿から守る鹿除けネットの設置と栃の実拾いの作業をボランティアにお願いしていましたが、数を重ねるうち、常連のボランティアが自主的に応援団「古屋でがんばろう会」を結成してくれました。現在ではおおむね月一回古屋集落を訪れ、栃の木のある山の管理に加え、道路の修復、栃の木の調査、雪かき、神社の整備など様々な集落維持のための作業を手伝っています。

ボランティアの数は60~70名ほどで、昨年度はのべ450人ほどのボランティアが古屋集落を訪れたそうです。存続の危機にあった古屋集落に、一筋の光が見えはじめています。

 

■今が一番幸せです。

 集落のおばあちゃんたちは、そんなボランティアの方々に、栃餅の入ったぜんざいをふるまい、労をねぎらうそうです。人との交流、社会に役立っているという実感、あるマスコミの取材で一人のおばあちゃんが言ったそうです。「今が一番幸せです。ちょっと忙しすぎますが。」と。

 古屋を何とか存続させたいと願うおばあちゃんたちの強い気持ち、素直に見習いたいと思った次第です。

(平成24年度豊かなむらづくり全国表彰事業で農林水産大臣賞を受賞)  

 

 

 

(文責:主任研究員 押谷 茂敏)