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バックナンバー VOL.91~92

まち・ひと・しごと創生 -地方のしごと、地方への人の流れの現状-

 昨年閣議決定された「まち・ひと・しごと創成」。今年度に入り、地方自治体において「地方人口ビジョン」及び「地方版総合戦略」の策定が本格的に始まりました。

 

 「①東京一極集中の是正」、「②若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現」、「③地域特性に即した地域課題の解決」の基本的視点から人口、経済、地域社会の課題に取り組むことが主眼に置かれ、「まち・ひと・しごとの創成と好循環の確立」に向けて、「(1)地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする」、「(2)地方への新しいひとの流れをつくる」、「(3)若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」、「(4)時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する」の4つの基本目標が掲げられています。戦略と言いながら、4つの基本目標はかなり幅広であり、ともすると既存の総合計画と同様の内容にとどまってしまいそうな状況も見られますが、新ためて今回の総合戦略のポイントである「しごと」「地方への人の流れづくり」の背景について簡単に整理したいと思います。

 

■日本の企業の状況

 平成24(2012)年2月現在、日本の企業数は386万者で、そのうち中小企業・小規模事業者数は385万者と実に99.7%、小規模事業者数は334万者、86.5%を占めています。従業者数においても約7割が中小企業で働いています。いずれの都道府県においても同様の状況で、中小企業・小規模事業者が地域の経済や雇用を支える極めて重要な存在であることがわかります。

 しかしながら、「中小企業・小規模事業白書」や昨年度から発行された「小規模事業白書」に示されている通り、中小企業・小規模事業所は売上げや事業者数の減少、経営層の高齢化、経営に資する中核人材の不足が課題として挙げられています。またそのために自社の事業を魅力的に発信する方法や人材採用ノウハウ、若手職員を育成する余裕と力が不足しているということも明らかになっています。

 

■様々な地域産業支援施策

 これまで産業支援は補助金での支援、企業誘致を中心に進められてきましたが、昨年度、各都道府県に「よろず支援拠点」が設置され、企業の売上アップにフォーカスした支援が始まるなど、新たな産業支援への取組が進められています。

 しかし昨年度、ある自治体で地域産業に関する基礎調査を実施したところ、当初、データ上での実態や目立った企業の情報しかわからず、行政職員も市内事業者も、そもそも自分たちの自治体にどのような企業があるかすらわからない状態でした。これはその他の多くの自治体でも同じ状況ではないでしょうか。

 このような中で、先述のような課題を抱える地域の中小企業・小規模事業者をどのようにして支援し、地方でのしごと・雇用をつくるのか、具体的な取組を行っていく上での課題は多いです。

 

■地方への人の流れづくり

 一方、地方への人の流れづくりについて、内閣官房「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」では東京在住者のうち地方へのUIJターン意向を持つ人は一定数いるという結果が出ています。しかし、市町村単位でUIJターン支援に取り組んでいる自治体は少なく、支援体制、情報が不足している現状があります。

 また、同様の調査において、移住するための懸念として「働き口が見つからない」が最も多くなっています。仮にUターン者であっても、子どもの頃に地元企業を知る機会が乏しく、大学進学時に都市部に転出してしまい、そもそも地元企業の存在すら知らない状況がある中で、企業と人、地域と人をどのようにつないでいくかは大きな課題です。

 

■まとめ

 これまで市町村では、既存市民の生活環境の向上に取り組み、産業支援施策として企業のUIJターン活動に莫大な費用をかけてきました。これらについて継続して取り組んでいくことは必要です。しかし、今回の総合戦略では、特に人口減少が大きく進む地方部において、人を惹きつける地域産業支援、企業や地域の魅力の発信、地方に魅力を感じる人を地域に受け入れる仕組みづくりを重点に考えることが必要です。

 

(文責:宮原知沙)

 

まちといなかをつなぐ「おいでん・さんそんセンター」の取組から見えるミライの暮らしと社会

■人と人、まちといなか、地域と企業をつなぐ「おいでん・さんそんセンター」

 「平日の私、休日の私。豊田でかなえる、もう一人の私」。これは、おいでん・さんそんセンター※1(以下、OSC)のプロモーション用のポスターです。11月20日から1ヶ月間、トヨタ自動車㈱本社の最寄駅である愛知環状鉄道の三河豊田駅構内と愛知環状鉄道の車両内に掲示しています。

 OSCがある豊田市と言えば、世界的なくるまの都市、誰もがそのようにイメージするでしょう。一方で、市域の約7割は森林で広大な過疎地域を抱えているという顔もあります。市町村合併後、10年余りになりますが、農山村部の旧町村エリアにおける過疎化に歯止めがかかっていないのが現状です。

 こうした状況を背景に、豊田市が平成25年8月8日に開設したのがOSCです。農山村部が抱える諸課題を都市部の人や企業等の力を借りながら解決すると同時に、都市部が抱えている諸課題をも解決する、つまり、いなかとまちの“Win&Winの関係づくり”によって双方の困った(諸課題)を解決するための中間支援(つなぎ役)を行う組織がOSCです。

 

■おいでん・さんそんセンターが描く「ミライのフツー」

 都市部と農山村部が共存し、暮らしを豊かにしていくための多様な地域資源に恵まれていることが豊田市の大きな特性です。世界の最先端企業に勤めながら、自然豊かな農山村地域で農的な暮らしも実践できます。都市部と農山村部のそれぞれの特性・強みを活かし合い弱みを補い合うことで、新しい魅力や価値を創造し、様々なライフスタイルを選択できるまち。それが、豊田市やOSCが目指している“暮らし満足都市”です。競い合って成長してきたこれまでの20世紀型の社会や化石燃料に依拠したモノで溢れる生活を、共に支え合いながら豊かになる社会やスローで自然・地域社会と共生した暮らしに変えていく、こうした21世紀型とも言える社会や暮らしを新たな価値として創造し、“ミライのフツー”にしていくためのお手伝いをしていくことがOSCのミッションです。

 

■「休日きこり」で過疎集落に貢献

 上記のポスターのモデルとなっている袋真司さんは、平日は、トヨタ自動車㈱の社員として働く「トヨタマン」。休日は、仲間と一緒に豊田市旭地区の惣田町の山に入って間伐ボランティアを行う「休日きこり」。袋さんが惣田町と出会ったのは、平成25年6月。「豊森なりわい塾」の第三期生になったことがきっかけでした。※2

 豊森なりわい塾の卒塾生の中には、袋さんの他にも、日頃は都市部で暮らし、休日になると惣田町に訪れて集落行事に参加したり、農作業を手伝ったりするような人がいます。こうした応援者とも言える人たちは、集落のお手伝いをしながら、長年培ってきた農山村での暮らしの技や文化など、多くのことを集落の方々から学ぶ機会を得て、毎回充実した気持ちで都市部に帰って行かれます。惣田町は、高齢化率が53.422世帯のいわゆる限界集落と呼ばれる小規模高齢化集落です。しかしながら、都市部に住む人たちと集落の人たちとの心地よい“Win&Winの関係”によって、消滅することなくしっかり持続していくのではないか。先般、集落ビジョンを改定するためのワークショップを開催するために惣田町に訪れ、集落の皆さんとお話をする機会がありましたが、その時、そう実感しました。

 

■過疎集落と人口減少時代を救う鍵は、「一人多役社会」の実現

 「百姓」とは、百(たくさん)の姓(職業、仕事)を持っている人をさします。現代人の多くは、サラリーマンとしての自分だけ。すなわち、「一姓」ではないでしょうか。袋さんの場合、「トヨタマン」としての顔に加え、「休日きこり」としてのもう一つの顔があります。換言するなら、経済人(会社人間)としての自分と地域人としての自分(ボランタリーな自分)を持ち合わせたマルチな暮らしを実践されています。いわば、百姓に近づくような暮らしを志向する人であり、一人で多役を担う暮らしの実践者であると言えます。

 過疎・高齢化が深刻で、農山村集落を持続させていくことが困難になっています。また、日本全体が既に人口減少時代を迎えています。人口減少を緩和することはできたとしても、食い止めることはできないかも知れませんが、一人多役の暮らしの実践者が多くなれば、持続可能な豊かな社会が実現されていくのではないかと思います。

 ミライを予感させる袋さんのような暮らし方を提案・応援しているOSCの今後に期待すると同時に、その一助になっていきたいと思います。

 

※1:当研究所では、設立前からOSCの企画・運営支援等を受託しており、今回のプロモーションポスターの作成は、この一環として発案・プロデュースに携わったものです。 

※2:詳しくは、OSCのHPのトップページにある「トヨタマンが休日きこりになった理由」をご覧ください(「おいでん・さんそんセンター」で検索)。

 

(文責:主席研究員 加藤栄司)