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バックナンバー VOL.94~96

まちづくりにおけるシニアパワーは「老人力」か「老害」か?         ~地域の可能性の伸ばす 多様性の高い組織づくり

■まちづくりにおける「老害」とは?

 最近、「老害」という言葉を耳にすることが多くなってきました。高齢化とともに「困った高齢者」も増えているのかもしれません。『大辞林(第三版)』をみると「企業や政治の指導者層の高齢化が進み、円滑な世代の交代が行われず、組織の若返りがはばまれる状態。」とあります。実際に最近では、企業におけるカリスマ経営者の引退や創業者と後継者の対立などが話題になっています。

 一方で、上記の定義にはイメージされていませんが、何年も前から、自治会やNPO・市民活動団体などでもリーダーの世代交代が大きな課題になっています。こうした活動分野は「生涯現役」の性格が強いため、本人の意欲や人材不足などによって役割が長期化・固定化しがちです。ただ、地域の多様な価値観に揉まれて柔軟にまちづくり活動を展開してきたリーダーには、この問題を理解し、早くから「引き際」を準備している人も多くみられます。この原稿で、様々なリーダーとの意見交換を通じて感じた課題と解決の方向性について整理したいと思います。

 

■リーダーの高齢化による問題と世代交代が進まない理由

 いま、多くの地縁組織や市民活動団体で70歳前後の団塊世代が活動をけん引しています。パイオニアとしての自負とこだわりが強いゆえに仕事を抱え込み、さらに複数の役職を兼務することで、過剰な負担が集中しがちです。一方で、加齢とともに体力や気力が衰え、そこに家族の介護などの負担も重なったりして、活動の継続が困難な状況に追い込まれるケースも多くあります。

 一方で、新たな担い手として期待される現役世代では、定年延長などにより地域に戻る年齢が70歳前後と高齢になることから、担い手として地域とのつながりや活動経験を積むための時間的な余裕がなくなりつつあります。また、強いリーダーのもとで、閉塞感を感じながら思うように活躍できず、組織運営の経験が不足していることも少なくありません。

 このまま組織の世代交代が遅れると、旧来の保守的な思考ややり方では社会の変化や価値観の多様化への柔軟な対応が難しくなり、住民ニーズや地域課題とのミスマッチによる組織・活動の劣化が懸念されます。その結果、次の世代の成長や地域の発展の可能性を奪うことになれば、まさに「老害」と言わざるをえません。

 

■まちづくり活動の新陳代謝の促進と持続可能性の向上

 今後、地域やボランティア、市民活動団体などが主体となった地域自治や市民活動の重要性はますます高まっています。地域の課題に応えて魅力的な活動を持続・発展させていくためには、次の世代にゆるやかに役割や責任をバトンタッチし、組織の活力を高め、新しい時代に対応していくことが必要です。まちづくり活動における新陳代謝を促し、持続可能な取組に成長させるための対応方策のアイデアについて以下に整理します。

 

『OJTで役割・やりがいを継承』

 強いリーダーが倒れるまで走り続けるしかない…という実情もあります。であれば、数年をかけて現場での実践を通じて「役割」と「やりがい」を、少しずつゆるやかに継承していくことが求められます。

 

『定年制と「老人力」の活用』

 最近、役員の定年制を導入するNPOもみられます。ただし、高齢者ほど気力・体力面の個人差が大きいことから柔軟な運用が必要です。さらに、先輩方の経験や人徳、人脈といった「老人力」を無理なく発揮してもらうための仕組みづくりも欠かせません。それによって、幅広い世代の多様な価値観や知識、経験が共存する強いチームを作ることが可能になります。

 

『理念や役割、組織像を磨き直す』

 強いリーダーがとにかく「退く」ことが、新しいリーダーの出現を促す側面もあります。ただ、リーダー不在の期間があれば、停滞や混乱もおこるかもしれません。むしろその時期を次のステージに向けた充電期間ととらえ、メンバー間や外部との対話を通じて組織の理念や役割(公益性)、リーダーシップのあり方などを見つめ直すことができれば、新たな組織の姿が見えてくると思います。

 

『「やりたい」で組織・活動を変革』

 先輩方が築き上げた資産を大切に継承することは後継者の責務です。一方で、社会の変化や新たな地域課題を踏まえて、目の前にいるメンバーの「やりたい!」という気持ちを尊重して組織や活動内容を再構築(リセット)し、「自分たち」の組織・活動として再スタートを切ることが重要です。

 

(文責:主任研究員 池田哲也)

ろう者のことをもっと正しく知ろう!

 私は、あいちコミュニティ財団の「深掘りファンド」のアドバイザーとして「名古屋ろう国際センター」を支援しています。ろう者の在住外国人について調査していますが、そもそも、私たちがろう者の事をきちんと理解していないことがわかりました。ここでは、そのいくつかを紹介します。なお、ろう者について完璧に勉強できていませんので、、間違い等がありましたらご指摘ください。

 

◆「ろう者」と「聴覚障害者」

 「聴覚障害者」は、まったく聴こえない人や難聴者、生まれつき聴こえない人や中途失聴者、高齢者になって聞こえにくくなった人まで、聴覚に障害を持つ様々な人を含みます。 一方で「ろう者」は「聴覚障害者」の一部であり、生まれつき若しくは音声言語を獲得する前に失聴した人であり、手話を第一言語として使いこなしている人が多くなっています。

 

◆ろう者が日本語を学ぶ

 言語を獲得するのに聴くことは重要です。このため、ろう者は言語の獲得が難しく、日本語が十分にわからない人も多いようです。ろう学校では日本語の勉強をしているようですが、健聴者が自然と日本語を獲得することとは大きく違うようです。単語は理解できても、日本語の文法は難しく、文章になると理解することが難しい人もいるようです。もちろん、ろう者の中にも日本語を理解でき、文章の読み書きができる人も多くいますが、大人になってからも一生懸命に日本語を学んでいる人もいるのです。

 私は、「『ろう者』は耳が聞こえない、言葉を発することができないだけで、日本語はわかっている」という大きな誤解をしていました。

 

◆日本手話と日本語対応手話

 手話は、各国ごとにあるそうです。世界共通の「国際手話」というものもありますが、まだ普及していないようです。日本の手話には「日本手話」と「日本語対応手話」があります。「日本語対応手話」は日本語をそのまま手話に置き換えたものですが、「日本手話」は日本語とは別の言語なのです。「日本語対応手話」は日本語のわかるろう者にしかわからないのです。テレビや講演会で出てくる手話通訳の多くは「日本語対応手話」のようですが、日本語を十分に理解できないろう者にとっては「日本語対応手話」は難しいようです。「要約筆記」も同様のようです。

 私には、「日本手話」と「日本語対応手話」の違い、「日本語」と「日本手話」の違いは良く理解できないものでした。

 

◆手話にも地域や年齢により違いがある

 「日本手話」は日本語ではないため、「だがね」「みゃ~」や「なんでんねん」などの方言はありませんが、同じ単語でも地域や年代により手話の表現方法は異なるものもあるようです。まったく通じないという事はないようですが、背景の文化により手話も変わってくるようです。

 

◆ろう者は表情でも伝える

 ろう者は言葉を発して聴くことができない分、大きな身振りで手話を使うとともに、顔の表情でも豊かに表現して、コミュニケーションをとっています。私もろう者と会話をしていて、手話がきちんと理解できていない時も、身振りや顔の表情を見て、何となく言っていることが想像つくことが多くありました。大きな身振りと豊かな表情で会話をしていると、とても気持ちよく感じました。

 

◆ろう者はSNSの達人

 ろう者の通信手段は、少し前まではFAXでしたが、現在はSNSが主流のようです。ろう者はLINEやTwitterをとても使いこなしています。文章は使いませんが、単語と絵文字でいろいろな人とコミュニケーションをとっています。スマホ自体もとても使いこなしており、私が手話を理解できない時には、スマホで文字を出して説明してくれるなど、とても機動的に対応してくれました。

 

◆パラリンピックにはろう者の競技がない

 この夏にはリオデジャネイロ、4年後には東京でパラリンピックが開催されます。パラリンピックには当然、ろう者のアスリートも参加するのだろうと思っていましたが、聴覚障害者の競技はなく、肢体不自由者、視覚障害者、知的障害者の競技が中心ということです。聴覚障害者の競技会としては「デフリンピック」があります。 

 今回はろう者について取り上げましたが、その他の障害者の世界も奥深いものがあると思います。ノーマライゼーションの第一歩として、それぞれの世界について、それぞれの人について、正しく知ることから始めることが大切だと思います。

 

(文責:主席研究員 春日俊夫)

若者定住に必要な地域への愛着心とは

若者定住対策と地域の誇り、愛着心

 昨年度、全国の自治体で「まち・ひとしごと創生 総合戦略」が策定され、人口対策として、効果的な若者の転入・定住促進対策の模索が行われ、どの自治体も、若者の働く場の確保と子育て環境の充実策を打ち出しています。

 また、今回の総合戦略の特色として、地域の愛着心の向上を課題としている自治体が多いと思われます。今、田舎暮らしを志向する都市部の若者が増えており、働き方、暮らし方に対する価値観も多様化しています。その意味で、大都市に比べて利便性や職場の種類などの面でハンディがあっても、地域に対する誇り、愛着を持つことができれば、居住地として地元を選択する若者が増えるのではないか、また、地域に誇りと愛着を持つ若い人が多ければ、それを見て外から移住する若者も出てくるのではないか、と期待する自治体が多く、総合戦略でシティプライド、シティプロモーションを掲げています。

 

地域の誇り、愛着心を育むために

 地震で大きな被害のあった熊本では、熊本城を復興のシンボルにしようという機運が高まっており、熊本市民の誇りとして、熊本城の存在が大きいことがわかります。

 また、お祭りが残っている地域では、お祭りの時期になると、外に出ていった若者が帰ってくるという話をよく耳にします。さらに、祭りが残っているため、周辺に比べて地元に残る若者が多いという地域もみられ、お祭りの存在は大きいと思われます。

 こうした住民共通のシンボルがあれば、それが地域の誇り、愛着となります。しかし、多くの自治体では、シンボルが無い、何も特色が無いと答える住民が多く、こうした自治体の総合戦略では、地域学習・職場体験等を通じて、地域の歴史・文化・産業の魅力を掘り起こし、その特色の理解を促す取組みを掲げています。

 

定住・移住する理由は?

 自治体の住民意識調査では、住みやすいと感じる理由をよく質問します。その回答をみると、「まわりに自然が残っている」「住宅環境が良い」「日常の買い物の便」「周囲の人間関係」などの回答割合が高い場合が多く、地域に歴史、文化、産業の特色よりも日常生活の中で感じることを住みやすさの魅力と感じている人が多いと思われます。

 また、昨年、転出する若者が多く、長年人口減少が続いている或る自治体で、Uターン者に対するアンケート調査を実施したところ、Uターンして良かった点として、「家族や友人と近くで暮らせる」という回答が最も多くみられました。さらに、結婚して外から転入した若い母親からは、「子育てについて相談できる人がいる」「子どもを見る地域の大人の眼である」ということから子育てしやすいという評価を聞くことができました。

 さらに、祭りで若者が多く残る地域において若者が定住する理由を質問したところ、お祭りそのものの存在よりも、お祭りを通じて地域の大人から子どもまでみんな顔見知りになっていることが大きいのではないかという声を聞くことができました。

 このことから、地域の中での人と人とのつながりの強さが、定住の大きな要因になると思われます。

 

若者の定住につながる地域の人との関わり

 若者の定住を促進するためには、若者が地域の中で、どれだけ多様な人間関係を築くことができるかが重要になります。

 そのために、地域の事業の中に若者の企画を組み込む、若者グループの企画を地域の関係者が協力支援する、地域の課題解決の議論に若者グループを巻き込むこと、などの取組みを行い、若者同士の関わりだけではなく、若者と地域の大人とが多様な関わりを持つ機会を増やすことが重要となります。

 学校と地域との連携は、地域の大人との多様な関係づくりを進める重要な機会にすることもできることから、若者定住の観点から、学校と地域との連携を考える必要があると思います。

 

これからのアクティブ・ラーニング

 文部科学省は、小学校2020年から、中学校2021年から、高校2022年から実施するが学習指導要綱の全面改訂のポイントとしてで「アクティブ・ラーニング」による学習過程の質的改善を行うことを示しています。

 「アクティブ・ラーニング」は、①対話的、②主体的に、③深い学び、の3つが重要な視点とされており、「地域課題の解決」は最もふさわしいテーマの一つと考えられます。それを学校の中で、子どもだけで取り組むのではなく、地域の大人も積極的に関わって、子ども達との関係を築くことが重要になります。

 アクティブ・ラーニングを若者定住につなげることができるかは、地域が学校にどれだけ多様なプログラムを提供できるかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。

 

(文責:主席研究員 杉戸厚吉)