H25.第1-12講
第1講 テーマ 国土の将来と地域の自立 (2013 JUN. ちもんけん VOL.84)
2013年5月14日(火)14:00~16:00 名古屋栄ビル・特別会議室(12階)
「国土の将来と地域の自立―先進国に相応しい安定感ある社会の構築―」
中京大学理事・総合政策学部教授 奥野 信宏 氏
マクロやミクロ経済政策による国土、地域政策を西洋医学とすれば、人のつながりを基本においた政策は東洋医学、日本医学ともいえます。これからの国土形成、地域づくりを進める上で重要な視点は人の交流連携にあります。国土形成計画の基本戦略として議論されている、東アジアとの円滑な交流・連携、持続可能な地域の形成、災害に強いしなやかな国土の形成、美しい国土の管理と継承、これらを支える「新たな公」を基軸とする地域づくりはこうした理念を反映したものといえます。
そこでは新しい公共が大きな役割を担います。新しい公共は、行政機関の代替や行政の補完のほか、民間領域での公共性の発揮、中間支援機能など、多様な人材、主体が必要とされています。また、先進国にふさわしい、圏域及び地域が自立した安定感のある社会を実現するためには、人の繋がりの構築が重要な鍵となります。しかし現状は脆弱であり、行政と民間の協働を実現する新しい公共の育成、繋がりの再構築が急がれます。
第2講 テーマ 「大震災に備えた住民参加による事前復興まちづくり」 (2013 JUN. ちもんけん VOL.84)
2013年5月30日(木)13:30~16:30 名古屋栄ビル・大会議室(12階)
「大震災に備えた住民参加による事前復興まちづくり」
首都大学東京 都市環境科学研究科
都市システム科学域 准教授 市古 太郎 氏
事前復興は、どんなに事前の防災対策を行っても被害をゼロにすることはできないという阪神・淡路大震災の教訓から学び、発展させることが出発点にあります。その中で減災と脆弱性の関係は重要なポイントです。また、気仙沼において東日本大震災の復興に携わる中で、ソフト・インフラとハード・インフラを含めたいわゆるプランニング・インフラ構築の必要性も痛感しています。
事前復興まちづくりを要約すると、①長期スパンでの「災害想像力」をつける、②地域や組織の「対応シナリオ」をつくる、③シナリオに基づく「しくみやルール」をつくる、④想定される復旧復興課題を解決する柔軟な「方針図」をつくる、⑤復興まちづくり訓練の成果を防災まちづくりと地域防災活動に反映させ「備えを多重化」する、といえます。
東京都の事前復興まちづくりは、1960年代以降の「防災拠点整備」、1980年代以降の地区を単位とした「防災まちづくり」へ発展、1995年の阪神・淡路大震災の教訓を受けて事前復興まちづくりがスタート。現在、東京都内の40を超える地区で数次のワークショップを含む「復興まちづくり訓練」を通して、長期スパンでの災害想像力を養う取り組みを進めています。
「東京都豊島区の復興対策について
東京都豊島区都市整備部都市計画課
係長 高橋 公喜 氏、橋田 真 氏
豊島区では、首都直下地震の被害想定を含め、1995年の阪神・淡路大震災の教訓から再び同じ被災を繰り返すまちから災害に強いまちをめざす「事前復興」の必要性を認識。豊島区における復興対策の課題として、①復興マニュアルの策定、②復興に関する条例の制定、③事前復興ビジョン案の公表、④復興訓練によるひと育て、の4つの重要課題を掲げました。
重要課題に沿って、復興マニュアルの一部を2011年7月に策定、目下その整備・充実を図っています。豊島区震災復興の推進に関する条例(2013年3月制定)において、予防、応急対策に加えて「復興対策」を明文化。事前復興ビジョン案は、被害想定とまちづくり将来像を重ね合わせた被災後の都市の復興方針案を示した上で、地区ごとに行う震災復興まちづくり訓練を通して、地域住民と被災後の復興イメージを検討、共有するものです。ひと育ては、出前講座等による普及・啓発と、復興訓練を通じて行います。特に復興訓練においては、復興市民組織の育成、地域協働復興の考え方・プロセスの習熟、平常時からの地域活動の醸成、復興まちづくり方針案の検討等を行っています。
第3講 テーマ 地域の安全を守る防犯まちづくり (2013 OCT. ちもんけん VOL.84)
2013年6月21日(金)13:30~16:30 名古屋栄ビル・特別会議室(12階)
「地域の安全を守る防犯まちづくり」
明治大学理工学部 教授 山本 俊哉 氏
今回は「地域の安全を守る防犯まちづくり」というテーマに「科学的根拠に基づく地域協働」という副題をつけました。防犯まちづくりの原点として、戸建て住宅の安全が定説ですが、これには犯罪事例をデータ化し、危険度の高いところから有効な対策を講じることが必要です。ここから敷地の形状や近隣と犯罪事例の関連を分析したゾーン・ディフェンスという防犯環境設計が生まれました。
防犯まちづくりにおいては、従来の事後対策から事前予防、しつけ、教育等を通じた社会的犯罪予防のほか、住宅の防犯対策や地域の巡回強化、見通しの確保など状況的犯罪予防の役割が重視されるようになっています。自助努力や個別対策の限界から、2002年頃から、従来別々に取り組まれていた防犯とまちづくりを相互に組み込んだ「防犯まちづくり」としての取り組みが始まりました。千葉県市川市など、各地で住民やNPO、行政等が一体となったモデル事業としての取組みが始まり、こうした活動を通じ、自助努力、日常的な活動などを基本とした防犯まちづくり活動が拡がっています。
「厚木市におけるセーフコミュニティの取り組み」
神奈川県厚木市危機管理部長 部長 倉持 隆雄 氏
厚木市は神奈川県中央に位置する活気のある都市ですが、2000年代初頭には多発する犯罪も大きな課題でした。犯罪発生の要因分析に基づく対策として、住民を中心にしたパトロールや防犯灯の照度アップなど「見せる警戒」を強化。次に取り組んだのは、厚木市の中心街である本厚木駅周辺の賑わいと安全の両立です。街の魅力づくりと安全対策の連携協働を図るため、「一日中厚木で過ごせる街」をキャッチフレーズに市街地にぎわい懇話会からの提言を受けながら、体感治安不安感の解消を目指しました。
こうした活動を通じ、①誰もが、安心して安全に、いつまでも健康に暮らせる社会の実現、②事件・事故の予防、③体感治安不安感の改善、④市民協働によるまちづくり、⑤信頼・絆の再生、⑥人口増、企業誘致・観光客の誘致によるセーフコミュニティ活動に取り組んでいます。交通安全や子ども・高齢者の安全など、テーマごとに設けた8つの対策委員会活動のほか、市内23地区の「セーフコミュニティ推進地区」における活動、WHOによるセーフコミュニティの認証取得、市内小学校における安全な教育環境づくりを目指す「インターナショナルセーフスクール」の認証取得など、セーフコミュニティ条例の制定などを通じ、総合的な安心・安全なまちづくりを進めています。
第4講 テーマ 「シビックプライドの醸成から始まる地域の再生」 (2013 OCT. ちもんけん VOL.85)
2013年7月19日(金)13:30~16:30 名古屋栄ビル・特別会議室(12階)
「シビックプライドの醸成から始まる地域の再生」
東京理科大学理工学部建築学科 准教授 伊藤 香織 氏
シビックプライドとは、都市に対する愛着、誇りを意味します。日本語の郷土愛とは少し違ったニュアンスを持ち、ここをより良い場所にするために自分自身が関わるという当事者意識を伴う自負心といえます。19世紀の英国では、産業革命を経て多くの都市が勃興し、中産階級が都市の主役として踊り出るとともに、市役所や音楽ホールなど市民のための建築を立派に造って文化的背景を整えることを街の誇りとして都市間競争が繰り広げられました。
シビックプライドは心の問題であり、そのためには都市と自分との関係を確認し、誇りを共有するために、街の中でそれを見たり、触ったり、体験したりできる「かたち」に表すそのための広義のデザインが必要です。
「住民が関わったと感じられるデザインを行う」、「再生されていくまちを住民にとっての出来事とするプロセスをデザインする」、「まちのリテラシーに支えられる環境整備、デザインの手を抜かない」、「他者の視点から評価してもらう」、「まちで自己実現すること」、「まちを愛すると同時にまちから愛されていることを実感すること」など、様々な視点からシビックプライドを醸成するまちづくりが世界各地で進められています。
「みなと再生から始まる“賑わい”と“ときめき”の中心市街地づくり」
今治シビックプライドセンター 事務局 三谷 秀樹 氏
本事業は、しまなみ海道の開通に伴って衰退した今治港の再生を目的に市主導で始まったものです。市民が港再生事業に関わるためにICPC(今治シビックプライドセンター)が生まれ、2008年に再生事業プランのコンペで原広司さんを中心とするグループの提案を採用。その後、コンサルタントの離脱やリーマンショック等に伴い事業見直しを迫られました。2011年からは事務局(市民)主導で「新しいみなとと賑わいを創るのは自分たち」という共通の意識のもとにイベント等を開催、ICPCの仲間づくりを進めています。
みなと再生のテーマは、「交通の港から交流の港」です。港は今治の街と瀬戸内海の島々を結ぶ起点です。「いまばり海の駅」ワークショップでは、学生たちの提案をもとに、お金を払っても来たくなる観光の仕組みも作りたいと思っています。学生たちとはフェイスブックで繋がっており、ワークショップなどへの参加を通してこれからの活動の中心人物になってくれたらいいと思っています。我々が始めた事業は、「みなと再生」に止まることなく大きく広がっています。お客様としての立場から当事者意識を醸成する、実践者をつくるそのことがシビックプライドだと考えています。
第5講 テーマ 「民間事業を原動力としたまちづくり ― 新たな官民連携の形態」 (2013 OCT. ちもんけん VOL.85)
2013年8月20日(火)13:30~16:30 名古屋栄ビル・特別会議室(12階)
「民間事業を原動力としたまちづくり ― 新たな官民連携の形態」
㈱ハクヨプロデュースシステム代表取締役
いなり寿司で豊川市をもりあげ隊隊長 笠原 盛泰 氏
青年会議所活動をきっかけに、さまざまなまちづくり、地域活性化の活動に関わってきた中に「いなり寿司で豊川市をもりあげ隊」があります。これまで「いいな、いなり寿司の日」制定や「豊川いなり寿司マイスター認定講習会」開催など地域ブランド化を進めてきました。また2010年のB-1グランプリに初出場して第6位となったときに、いつか豊川市でB-1グランプリ大会を開催したいと考えました。
B-1グランプリは、まちおこしの熱気と楽しみあふれる食を通じたテーマパークであり、よく考えられた「まちおこし」のツールといえます。愛Bリーグ憲章にも、「売るのは料理ではなく地域です」と明記されています。
企業人として、まちづくりにここまで関わるのは、95年続く地元の企業として存続していくことが最大の使命だと思っています。地域の発展と企業の発展の同期生、地域企業としてのシチズンシップが必要だと感じています。地域側から見たとき、地域貢献企業の存在が地域の力の差になる、そんな姿を目標にしたいと思います。
「おだわら無尽蔵プロジェクト ― 新しい公共の実践」
神奈川県小田原市企画政策課副課長 早川 潔 氏
小田原市は神奈川県西部の中心都市です。豊かな自然や偉人たちの足跡のほか、様々な自然と交流に培われた「なりわい」などの地域資源は豊富にあるものの、十分活用されていません。何でもあるが、何もないという状況です。「荒地は荒地の力で」という二宮尊徳の言葉があります。地域資源が眠る荒地を蘇らせるのは、地域の人々をおいてほかにありません。地域のすべての人々が課題解決の当事者として、行政との協働を育てながら公共的機能を全体で担おうというのが、2009年から始まった「無尽蔵プロジェクト」です。
無尽蔵プロジェクトは、「ウォーキングタウン小田原」、「小田原スタイルの情報発信」など10のプロジェクトからなります。無尽蔵プロジェクトを可能とした要素として、新たな価値創出につながる事業領域の設定、様々な担い手の組み合わせ効果、民ならではの自由な事業展開、公共によるオーソライズ効果などがあります。荒地は荒地の力でという二宮尊徳の教えで始まった無尽蔵プロジェクトを通じて、市民と行政の役割分担による、まちづくりの新しい形の可能性を明らかとしました。今後、無尽蔵プロジェクトの枠組みがなくても、民主体による活動が展開される「新しい公共」の展開を期待しています。
第6講 テーマ 「子ども・若者が生きやすい社会の構築 ― 子ども・若者支援の課題と方策」 (2014 JAN. ちもんけん VOL.86)
2013年9月27日(金)13:30~16:30 名古屋栄ビルディング・特別会議室(12階)
「子ども・若者が生きやすい社会の構築 ― 子ども・若者支援の課題と方策」
東京大学大学院教育学研究科 教授 本田 由紀 氏
子ども・若者が置かれている状況を、少し長いスパンの社会変化の中でとらえて理解することが重要です。経済が膨らまない社会では、思うように就職はできません。これは若者個人の努力不足としてとらえるのではなく、マクロな社会構造として見る必要があります。
家族、教育、仕事という異なる社会領域のアウトプットが、次の社会領域に循環する戦後日本型循環モデルが、90年代以降破綻しています。その影響を一番受けているのが、若者であり女性といえます。困難を生む背景として、我が国の社会保障政策、教育政策、雇用政策などの政策の問題、あるいは労働市場の問題が考えられます。
従来の一方向的な戦後日本型循環モデルの再編が必要です。教育と企業の間における対話や双方向性のほか、家族と仕事の間におけるワークライフバランス、家族と教育の間では学校がハブとして家族を支えるといった関係も必要です。また、セーフティネットで支えられる立場から、元気になって支える側となるアクティベーションの流れがなければこの社会を維持することは難しい状況です。そのために、共に生きる対等な仲間として、支援の目的や対象者、段階に即したパーソナル・サポート・サービスの実現が求められています。
「三条市の子育て支援施策について」
新潟県三条市教育委員会子育て支援課 課長 久住 とも子 氏
子育てにおいて、子どもの発達段階に応じていろいろな悩みが生じます。こうした問題に対応するため三条市においても福祉や教育、保健などのセクションのほか、市以外について児童相談所、医療機関、警察などの各機関で様々な支援を行ってきました。しかし、組織の縦割り、個や成長に合わせた切れ目ない一貫したサポート体制については課題があります。三条市民でもある子ども・若者に必要なサポート体制をつくるのは市の責任だという理念に立ちました。そこで生まれたのが、「三条市子ども・若者総合サポートシステム」です。
具体的には、①教育委員会に子育て支援課を設置、義務教育(文科省)と子育て支援(厚労省)の一元化を図る。②子育て支援課のほか、児童相談所、小中学校等、医療機関、ハローワーク、警察などと情報共有する「三条市子ども・若者総合サポート会議」を設置、乳幼児から就労に至るまで、切れ目なく必要な支援を行うため、関係機関が連携して個に応じた支援を継続的に行う。③システムを有効に機能させるため、子育て支援課に「子どもの育ちサポートセンター」を設け、システム運営のハブとしての役割を担っています。
第7講 テーマ 「農業イノベーション-総合6次産業化に向けた戦略」 (2014 JAN. ちもんけん VOL.86)
2013年10月23日(水)13:30~16:30 名古屋栄ビルディング・特別会議室(12階)
「農業イノベーション-総合6次産業化に向けた戦略」
明星大学経済学部 教授 関 満博 氏
農業分野における近年の大きな変化に米生産の比率の激減があります。こうした中で、大潟村あきたこまち生産者協会(秋田県)、株式会社輝楽里(江別市)、各地の大規模受託経営などの例に見られるように従来の米作中心農業の枠を超えたユニークな農業経営が始まっています。また、兼業の進展と米作を背景にして各地に広がってきた集落営農も高齢化の進展に伴って転機を迎えています。
各地における取り組みの注目点として、生産規模の拡大や集落営農とあわせ、6次産業化と言われる付加価値を高める農業であることがあげられます。一例として、10aの農地でそばを栽培した場合、玄そばの価格が1万5000円前後であるのに対し、製粉して販売すれば7万円ほど、手打ちそばにして宅配で売れば17万円、さらにそば屋を開業し飲食させれば48万円になります。それぞれの過程での雇用も増えます。農産物をJA経由で販売するだけの立場から、農産物直売所で消費者への直接販売、農産物加工所における高付加価値化、さらには農村レストランの経営等により、年間を通した雇用機会の創出、所得の拡大も図られます。こうした農業の6次産業化は、農村女性の自立、起業を促す側面からも注目されています。
「西条農業革新都市に向けて」
愛媛県西条市農業革新都市推進室 大久保 武 氏
西条市の農業産出額は150億円/年で愛媛県下2位ながら、工業出荷額の8000億円余に比べて小規模です。また農家1戸当たりの経営規模も小さく、農業を「業」として成り立たせることが課題です。
西条市では、商工連携の視点から様々な農業の6次産業化施策に取り組んできました。平成23年3月、日本経団連の「未来都市モデルプロジェクト」実証地域として「西条農業革新都市」が選定され、住友化学㈱が中心となってプロジェクトの中核を担う農業法人「㈱サンライズファーム西条」が同年8月に設立されました。12月には、国の地域活性化総合特区にも指定され、平成27年度までに10億円の販売額拡大、食関連企業への立地奨励交付金交付件数10件、年間農業販売額2千万円以上の経営体数80の実現を目標に掲げています。プロジェクトのキーポイントは、地域の農業者を含めた加工・流通・販売を中心に据えたマーケットインの仕組みづくりを通じて付加価値の高い産地化をめざすことにあります。中核となる加工・流通センターの整備を進めるなど、食産業の集積拠点とした総合6次産業都市の実現に向けて取り組んでいます。
第8講 テーマ 「デマンド型交通の特性と課題― 最適な地域交通体系の構築をめざして」(2014 JAN. ちもんけん VOL.86)
2013年11月13日(水)13:30~16:30 名古屋栄ビルディング・特別会議室(12階)
「『電話で予約バス』について」
岐阜県可児市総合政策課 課長 牛江 宏 氏
様々な課題を抱える公共交通について、可児市が取り組んでいるデマンド型コミュニティ交通の事例を報告します。可児市にはJR、名鉄線の2路線の鉄道、東濃鉄道の路線バスのほか、市の自主運行バスとして、路線型のさつきバス5路線、八百津線廃線代替バスYAOバス、電話で予約バス7系統を運行しています。電話で予約バスは、定時定路線型の限界、高齢者がマイカーから公共交通へ転換できるコミュニティ交通確保の観点から生まれたものです。特徴としては、タクシー事業者の車両を使って決められたエリア内を最短距離で結ぶ区域運行方式、予約に応じて運行する基本ダイヤ型、予約に応じて設定されているバス停なら発着可能な方式をとっており、平成24年度に21,800人が利用しています。利用者数、利用者アンケート、運行事業者ヒアリング等を通じて有効性を確認できています。一方、利用者数の増加に伴って、運行車両数の限界などの課題もあり、今後は市による車両購入の検討などが必要となっています。
「『元気バス』について
三重県玉城町総務課 中西 司 氏
玉城町においても従来は路線型バスを運行していましたが1台当たりの利用者が限られ、効率的なバス運行が求められていました。そこで取り入れたのが、ICTを活用したオンデマンド型の元気バスです。一般的なオンデマンドバスは、オペレータが電話予約を受け付け、経路を考え、運転者に配車を伝えるという高度な能力が求められます。玉城町が導入した元気バスは、オペレータに頼っていた経路作成や配車指示をクラウド型コンピュータで行うことで、サーバ費用も安く抑えられます。予約は電話のほか、パソコン、スマートホン、公共施設等に設置のタッチパネルなどで行うことができます。バス側はタブレット型車載器を用い使い勝手は簡便となっています。バス停数は従来の53か所から157か所に増え、年間利用者数は約30,000人。また予約システムにはゆとり時間を設定し、予約時間の範囲内で対応可能な乗車を認め、乗合効率を高めています。また、希望者に携帯型簡易予約端末を配布し、外出支援のほか緊急通報、安否確認等、福祉面にも活用しています。
「地域公共交通におけるデマンド交通の役割 その特性と位置づけ」
公益財団法人豊田都市交通研究所
主任研究員 福本 雅之 氏
公共交通は共同で利用する交通という意味であり、公共が担うという意味ではない点を押えておくとデマンド交通を理解しやすい。デマンド交通は走らせ方の区分であり、公共交通云々とは異なるものです。日本では1970年代に民間バス事業者の路線維持の観点からスタート、2000年代に入ると市町村が費用効率的な移動手段として取り組むようになり、全国的に急増。これには路線バスの退潮、高齢化などの社会的背景、ICTや法的位置づけなどの技術・制度的背景があります。
デマンド交通には様々な方式があるが、経路、時刻、停留所の自由度と車両の大きさの組み合わせと、制度上の位置づけから整理するとわかりやすい。路線バス代替、福祉輸送、それぞれのアプローチからもデマンド交通がめざす性格も異なってきます。また、ターゲットとする利用者、運行の目的によって、運行形態の選定が必要となります。他の交通手段との役割分担、総費用と一人当たり費用、利用者負担と公的負担の線引き、デマンド交通以外の選択肢やそれぞれの課題も含めて検討し、デマンド交通を選ぶ理由を明確にする必要があります。
第9講 テーマ 「団塊シニアの地域回帰支援」 (2014 JAN. ちもんけん VOL.86)
2013年12月12日(木)13:30~16:30 名古屋栄ビルディング・特別会議室(12階)
「団塊シニアの地域回帰支援」
NPO法人シニアわーくすRyoma21理事長
有限会社アリア代表取締役 松本 すみ子 氏
今日の超高齢社会において、福祉施策を始め年齢で区切った対応はもはや困難となっています。まず、65歳以上を高齢者としてひとくくりにしないことが必要です。一般的な生涯労働時間10万時間に対し、60歳~80歳の自由時間も10万時間近くあります。こうした中で生涯現役志向が高まるなど、シニアの意識も大きく変わっています。どこに働きかければ地域の活性化に誘導できるか、ターゲットをどこに定めるかがポイントです。サービスの提供ではなく一緒に何かをやろうという企業の団塊世代向けの取り組みは行政にも参考になると思います。
行政側のニーズを補完し、新しい公共の推進する上で、シニアが期待される時代です。年金兼業生活が一般化する時代、人生二毛作時代といえます。周囲の人も自分も幸せになる活動として、コミュニティビジネスが団塊世代の活躍の場として注目されています。地域デビューに当たって、趣味やボランティア活動が幅広い活動やコミュニティビジネスにつながっていきます。個人で取り組むこと、地域活性化につながること、行政の協働事業などシニアの活動分野は様々です。
「シニアが地域を活性化する “健康・いきがい”から“やりがい実践”シニアへ ~事例で考える『志事力』発揮3ヶ条~」
NPO法人シニアSOHOサロン・三鷹 前代表理事
好齢ビジネス・パートナーズ 世話人 堀池 喜一郎 氏
表題に書いた「健康・いきがい」については「やりがい」に変えることが必要であるし、「志事力」ということばは、人に仕える必要のないリタイアした後の人にとっては、いちばんやりたいことをやるという意味で書きました。ただ、実際に実践している人は非常に少なく残念です。高齢者の知恵や人脈を活用して、楽しく活動しながらお金も稼ぐ活動を通じて、面白く暮らしながら、地域で活動し、地域につながり、能力・役割が発揮できます。
受身の「ただのオジサン」から自分にできることを実践する「ただならぬ地域人」への脱皮が必要。「ただならぬ地域人」は「志事」人間といえます。冒頭でお話しした「やりがい」は「志」と「得意技」が結びついて実現します。シニアによるコミュニティビジネスの実践例として、ネットを駆使した「シニアSOHO」、芝生化を行う学校緑化プロジェクト、30代ママと70代母親の開発・製造・販売を行う「孫育てグッズ開発」起業など数多くあります。シニアが地域で信頼され、面白く仕事を継続するための3条件として、生きがい、やりがい、ナイスガイの「3ガイ主義」を掲げて活動しています。
第10講 テーマ 『地域に新たな風を吹き込むアートの力』
2014年1月31日(金)13:30~16:30 昭和ビル・ホール(9階)
「地域に新たな風を吹き込むアートの力」
東京芸術大学音楽学部音楽環境創造科 教授 熊倉 純子 氏
アートプロジェクトは1990年代以降、日本各地で取り組まれている共創的芸術活動です。アートプロジェクトでの対象は絵画や彫刻に止まらず、空間全体を使った展示、ダンスや音楽、演劇、映像など幅広いです。また、出来上がった作品だけでなく、様々な人がいろいろな形で参加する制作プロセスも重視されます。
行政が関わるアートプロジェクトとして、経済波及効果をめざす新たな観光資源づくりとしての取り組みのほか、地道なまちづくりの一環としての取り組み事例などがあります。いずれも街や地域に飛び込み、様々な人々との関わり合いがコミュニケーションを誘発します。
このときプロジェクトをコーディネイトする仕掛け人の役割が重要となります。経済効果のほか、来訪者が増えることでまちの魅力が再発見され、シビックプライドが高まるといった効果もあります。
私が関わっている取手アートプロジェクトでは、1999年以来、行政、市民、大学が連携して取り組み、行政内では文化芸術課が中心となって予算措置、調整役を担っており、庁内の高齢福祉課、産業振興課、教育委員会、市民活動支援課などがそれぞれ役割分担しています。アートプロジェクトのきっかけやねらいは、まちづくりのほか、異業種分野との出会い、社会包摂的活動、防災、環境など幅広く、いずれも短期的な効果を求めるのではなく、長期的な取り組みが必要です。
「アートが街や社会にできることって? BEPPU PROJECTについて」
NPO法人BEPPU PROJECT 代表理事/アーティスト 山出 淳也 氏
BEPPU PROPJECTはアート体験を通じて魅力的な地域づくりに取り組むことを目的に大分県別府市を拠点に活動しているアートNPO法人です。アートによる地域の活性化には継続が必要であり、そのための活動拠点の整備、作品の発表の場としての芸術祭(「混浴温泉世界」「ベップ・アート・マンス」)やアートを巡る旅(「国東半島芸術祭」)など、様々なアート活動の支援や催しを行っています。
活動において留意すべきことは、アートは地域の問題を「解決」するものではなく、「問題提起」するものだということです。アート体験を通じて創造的な「気づき」を得た住民が地域を変えていくものと考えています。
行政は、アートやアーティストは住民に自由なものの見方や考え方を促す媒体であるということを自覚することが必要です。その際、より円滑に活動が展開されるためには行政・住民・アート(アーティスト)を繋ぐ中間的な存在が必要です。我々BEPPU PROPJECTはその一翼を担っています。
第11講 テーマ 『人口減少時代の定住対策』
2014年2月12日(水)13:30~16:30 名古屋栄ビルディング・特別会議室(12階 )
「住みたい街、住み続けたい街、流山」
千葉県流山市マーケティング課 シティセールス推進室 河尻 和佳子 氏
千葉県流山市マーケティング課は民間からの採用者3名を含む6名からなる組織です。自治体経営には都市が発展し続ける仕組み作りが必要との認識から、ブランドイメージを確立し、転入・定住促進を図っています。
マーケティングとは「売れる」仕組みを作ることです。街の強みを知り、売り込む対象を決め、その手段を考えることです。流山市では市民税のうち個人住民税の占める割合が大きく、高齢化と人口減少が自治体経営に及ぼす影響が非常に大きくなります。そのため、担税能力が高く、その子どもたちが住み続けることを期待できる共働きの子育て世代(DEWKS)をシティセールスのターゲットとしています。
流山市の魅力を市外の方に知ってもらい、訪れて、住み続けてもらうため、「都市イメージのPR、各種イベントの企画と開催、良質な街づくり」の3つを柱に事業を展開しています。シティセールス推進室設置から6年、流山市の人口は35~39歳が最大のボリュームゾーンとなり、子育て世代が大幅に増加、子どもの人口も順調に増加しています。
「ふるさと篠山に住もう帰ろう運動」
兵庫県篠山市政策部企画課篠山に住もう帰ろう室 室長 竹見 聖司 氏
兵庫県篠山市では、人口減少が続いており人口減少と少子高齢化が大きな課題となっています。このため、地域の弱みを強みに変えて、地域資源をつくる取り組み「都市から篠山への価値観の流れをいざなう取り組み」と、実際に人を篠山市へ呼び込む取り組み「都市から篠山への人の流れをいざなう取り組み」を進め、価値観、人の流れを変え、経済性、利便性からの転換をめざしています。
具体的には、空き家や耕作放棄地の増加、高齢化や担い手不足などの「弱み」を、歴史的なまちなみや美しい田園風景、コミュニティなどの「強み」として価値観を転換し、篠山暮らしの応援や情報発信、空き家バンク制度や婚活支援などによって転入・定住促進を図っています。
現在、転入も増加傾向となり、徐々に移住者が増加し社会減少に歯止めがかかりつつあります。今後、一定の人口減少はやむをえないものの、価値の転換によって篠山の良さを広め、転入・定住を促進していきたいと考えています。
「あまらぶ大作戦、実施中!」
兵庫県尼崎市シティプロモーション推進部都市魅力創造発信課 課長 吉田 淳史 氏
兵庫県尼崎市は、昭和45年の55万人をピークに人口減少が続いています(現在45万人)。このままでは更なる人口減少、少子高齢化が想定されます。このため、子育てファミリー世帯を中心にした現役世代の転入・定住の拡大による、交流人口増→活動人口増→定住人口増をめざしています。
まずは魅力の再発見と創出を効果的に発信し、交流人口を増やし、まちの魅力を増進することを尼崎版シティプロモーションの柱としています。ポイントは尼崎を好きな人(「あまらぶ」な人)を増やすことです。職員を対象にしたシティプロモーション研修のほか、スタンプラリー、尼崎出身の有名人のトークショー、あまらぶウェルカムムービー作成など、数多くのイベントの企画・開催を行っています。
定住人口の増加には息の長い取り組みが必要ですが、観光客入込客数、ホテル宿泊者数などの増加など、成果が出つつあります。
第12講 テーマ 『「ニッポンの日本」をデザインする ― 南信州・飯田の戦略的地域づくり』
2014年3月18日(火)14:30~16:30 名古屋栄ビル・特別会議室(12階)
「『ニッポンの日本』をデザインする ― 南信州・飯田の戦略的地域づくり」
長野県飯田市長 牧野 光朗 氏
飯田市の特徴はモノづくり、まちづくりなどにおける多様性にあります。多様性とアイデンティティを備えた持続可能な地域づくりのために、「環境」と「人」の2つを視点に置いています。
「環境」では、市民や産業界など多様な主体の協働によって「おひさま」と「もり」が育む低炭素な地域づくりを推進しています。
「人」については、地域に帰ってきたいと思う人づくり、地域の価値と実力に自信を持つ人づくりを進め、「地育力」を高めるために、グリーンツーリズムやワーキングホリディなどのほか、大学連携会議「学輪IIDA」により全国の大学と連携して地域課題の解決に取り組んでいます。
また、地域の人々が暮らす上で産業振興は前提となるものです。地域の外から取り込む財貨を増やし、流出を抑えて地域内で循環させる定住自立圏構築をめざすのが、経済活性化プログラムです。「南信州・飯田産業センター」を中心に、食農、航空宇宙、環境などの地域産業クラスターの形成を進めています。
右肩下がりの時代において持続可能な地域づくりを進めるためには、型にはまった既成概念を打破する事業構想(プロジェクト・デザイン)が不可欠と考えます。