H29.第1-12講
第1講 テーマ 「地方の魅力を編集し、発信すると何が起こる?」
2017年5月11日(木)14:00~16:00 名古屋栄ビルディング 特別会議室(12階)
「地方の魅力を編集し、発信すると何が起こる?」
月刊「ソトコト」編集長 指出 一正 氏
2011年6月号から月刊ソトコトの編集長をやっています。編集長を務めるに当たって、お仕着せのライフスタイルの提案を止め、雑誌で取り上げる地域との継続的に関わり、自分が現地で見聞きした一次情報を伝えています。幕の内弁当のような情報発信で本当に地域の魅力が伝わるのだろうか。まずは土地の人に自分たちの地域の魅力を知ってもらうことを出発点に置き、平面的な情報ではなく、様々な視点からの情報発信を行っています。
ソトコトについても自分が編集長を務めるようになってから、雑誌のサブタイトルを「ロハスピープルのための快適生活マガジン」から「ソーシャル&エコマガジン」に変更。ソーシャルとは、社会をより良く面白く変えていくこと、社会にどう関わったらよいかといった意味に僕たちは定義しています。高知県の「とさぶし」を通じた地域の隠れた魅力発券、島根県の「しまコトアカデミー」による東京の若者の呼び込み、山形県朝日町の桃色ウサヒを媒介とした「まきこみ型」地域づくり、岩手県遠野市から始まった「Next Commons Lab」の取組み、島根県江津市の「蔵庭」を通じた「かかわり代」のあるまちづくりなどが一例です。
新しい地方を編集し、発信するソーシャルな視点で大切なことは、①関係人口を増やすこと、②未来をつくっている手応えがあること、③「自分ごと」として楽しいこと、等に集約されます。
第2講 テーマ 「地域資源をプロデュースする!~地域産業・企業の新しい価値を創出~」
2017年6月16日(金)13:30~16:30 昭和ビル 9階ホール
「地域資源をプロデュースする!~地域産業・企業の新しい価値を創出~」 地域に眠る宝を磨き、ブランドにする方法
(株)クリエイティブ・ワイズ 代表取締役 三宅 曜子 氏
地域資源の売り出しおいて、皆さんの多くは行政職員として、仕掛け人、サポートする立場。気づかない地場の資源を見つけ出し、事業者に売り上げを伸ばしてもらうか、売り出し後のフォローも含め、私が取り組んでいることをお話ししたい。
一例として、“なでしこJAPAN”国民栄誉賞記念品として贈った広島県熊野町の竹田ブラシ製作所の化粧筆に見るように、従来の「モノ」から、製品に「コト」「ココロ」という地域ならではのストーリーやターゲット、地域活性化に結び付く事業テーマ、差別化、売り出す舞台等を明確にし、メーカーが見えにくい分業生産の筆を世界的ブランド化に成功。
ブランド化のポイントは、①モノではなくコトを見る、②地域の資源を視点を変えて見る、③伝統・古いものを現代に合うように活かす、④将来の時代を読み価値に気づく視点を広げる、⑤細部にまでこだわる、こうした視点を持つことが重要です。
「奈良さくらコットン ~大和高田ブランド戦略による地域産業の活性化~ 」
大和高田商工会議所にぎわい大和高田推進課 森田 美穂 氏
大和高田は古くから発展したまちです。しかし、市街地の道幅は狭く車社会に対応できていないことから、市街地は空洞化。平成18年に商工会議所に「まちづくり委員会」を設置、当初は短所の発言が目立ちましたが、次第に長所に気づく発言も出るように。
江戸時代の大和高田は綿問屋のまちとして栄えた歴史があります。綿産地として発展した背景に降水量が少ないハンデを逆転の発想でプラスに変えた先人の知恵。明治には地元資本で大和紡績工場を設立、工業の発展に伴い商業も発展。綿は大和高田にとって特別の意味があります。地域振興で大切なことは、①自分のまちに自信と誇りを持つこと、②歴史は伝えていくことなど。①さくらコットンだけで紡績、②漂白・染色しない、③大和高田の工場で製造するブランド基準により製品開発。平成25年からはJR京都伊勢丹で販売開始したほか、三越日本橋本店にも進出。綿栽培のイベントなど、地元の人と共に地域産業としてのブランド化を進めています。
第3講 テーマ 「都市のコンパクト化の可能性と方策 ~ 健康・福祉に対応したまちづくり」
2017年7月14日(金)13:30~16:30 名古屋栄ビルディング 特別会議室(12階)
「これからの都市計画と健康まちづくり」
筑波大学システム情報系社会工学域 教授 谷口 守 氏
まちの構造は自動車利用の大小によって大きく変わります。当初、コンパクトシティの議論は環境問題からスタートしました。都市のコンパクト化は、西欧諸国では20世紀後半から注目されてきましたが、日本では2007年になって社会資本整備審議会第2次答申で集約型都市構造(コンパクトシティ)が提起され、13年に交通政策基本法、14年に都市再生特別措置法改正、地域公共交通の活性化及び再生法改正等に伴い、「健康・医療・福祉のまちづくりガイドライン」も策定され、都市交通とまちづくり、健康等に着目した取り組みが始まったところです。
歩行と健康の関係について、各地の調査結果から一日の歩行距離と死亡率との有意な関係が確認されています。コンパクトなまちづくりは、健康まちづくりとも言えます。合理的な土地利用計画の策定、公共交通サービス水準の向上、公共・公益施設の連続性、自動車交通との棲み分け、快適な歩行環境整備等がまちの質を高めます。
「 コンパクトシティの実現に向けて ~「住みたい」「住み続けたい」と思えるまちづくりへの挑戦」
広島県府中市建設産業部まちづくり課 係長 能島 克則 氏
主任技師 川崎 智隼 氏
府中市では、平成15年都市計画マスタープラン改訂に伴い、市街地のコンパクト化をめざすこととなった。土地利用の方針として、(1)住・工・農が調和した市街地形成、(2)都市として魅力活力の向上(中心市街地ゾーン)、(3)豊かな自然や農地を生かしたまちづくりを進めることとし、市内で住み続けられるネットワーク型のコンパクトシティのため、若い世帯の流出を食い止めるため「居住誘導区域」の設定、中心市街地での「都市機能誘導区域」の設定、集落市街地の地域の核維持とネットワーク確保などを図ります。
コンパクトシティの実現に向け、①住み続けられる「まち」として、日常生活に困らない町=生活中心街の育成、②都市機能の集約による歩いて暮らせるまちづくり、③公共交通の充実、④歴史的資源の活用などを総合的に進めるため、都市計画分野のほか、医療、福祉、商業、文化、財政等、他分野と連携したまちづくりが課題です。
第4講 テーマ 「地公共施設の更新・再編をどう進めるか」
2017年8月2日(水)13:30~16:30 名古屋栄ビルディング 特別会議室(12階)
「公共施設の更新・再編をどう進めるか ~ まちづくりとしての公共施設マネジメント」
名古屋大学大学院工学研究科 准教授 恒川 和久 氏
今日、公共施設の管理・運営は、施設の急速な老朽化、人口の減少と少子化・高齢化、厳しい財政状況等、厳しい環境下にあります。待ったなしの公共施設再編は、総論賛成であっても具体化には多くの壁があります。各自治体で策定される公共施設等総合管理計画にも、施設総量の縮減という数値目標に縛られ、公共施設・サービスのあるべき姿の議論がない事例が多いほか、画一的な数値面での縮減計画ではなく、自治体の特性、ライフステージ変化に伴う新たな公共施設重要の発生などの考慮が必要です。また、再編には部局縦割りの壁、自治体間の壁、官民の壁などを乗り越え、機能による異種用途の複合化、自治体の範域を超えた広域利用、民間施設・サービス活用なども必要です。
公共施設再編は目標年次まで待てません。有効活用されていない施設の早期削減に取り組むほか、受益者の偏在と負担の見直しなどを行い、公共施設更新・再編を後ろ向きの削減から、まちづくりに繋がる前向きの目標として欲しいと思います。
「公共施設更新問題への挑戦―秦野市の取組と日本のハコモノ事情から―」
神奈川県秦野市政策部公共施設マネジメント課長 志村 高史 氏
秦野市では、公共施設再配置の基本方針を将来にわたって真に必要な公共サービスを持続可能なものと定義。市民に公共施設の現状を課題、横断的に比較した公共施設白書を定期的に作成・公表。新しい情報を発信し続けることで、庁内や市民と危機感を共有。優先する方針を明らかにして再配置計画を作成。最終的に小学校区を中心とした15のコミュニティ拠点となる機能、施設に集約し、それ以外は譲渡・賃貸・解体することとしています。障害者福祉施設の民営化、保健福祉センターへの郵便局誘致などのシンボル事業を実施したほか、負担の公平化・適正化のため公共施設使用料の一括改定(平均55%引き上げ)。市民には、現在の安価なサービスのつけを将来市民に転嫁することの可否を訴えています。
秦野市の現状は遅かれ早かれどこの自治体でも直面することです。子や孫につけを先送りせず、国の補助を当てにすることなく自らの力でできることから始めよう。
第5講 テーマ 「民間と連携した健康都市づくり~民間発想の健康・介護プログラムの提案」
2017年9月14日(木)13:30~16:30 名古屋栄ビルディング 特別会議室(12階)
「長野県松本市における市民との共創による健康寿命延伸都市の創造」
一般財団法人「松本ヘルス・ラボ」 専務理事 降旗 克弥 氏
松本市では、都市戦略のキーワードとして、①健康寿命延伸都市・松本の創造、②松本ヘルスバレー構想、③健康経営、の3点を掲げています。「健康寿命延伸」の健康とは、人・生活・地域・環境・経済・教育文化の健康を含みます。これらの実現に向け、①産学官連携のプラットフォームを担う「松本地域健康産業推進協議会」の設置、②健康情報の見える化をめざす「松本版PHR」の構築、③健康に関する情報発信と集積を図る「世界健康首都会議」開催などに取り組んでいます。
こうした取り組みの要となるのが「松本ヘルス・ラボ」です。ヘルス・ラボは、市民と企業が一緒になって「健康価値」を創造する組織として、健康チェック(健康の見える化)、企業等と連携した健康プログラムのほか、市民参加による健康産業創出の場づくり、新しいビジネスの実証などにも取り組んでいます。
「スポーツを通した健康まちづくりをめざして」
NPO法人「エンジョイスポーツクラブ魚沼」アドバイザー 高木 貞介 氏
エンジョイスポーツクラブ魚沼は行政と連携しながら、介護予防や健康づくりに取り組んでいます。多くの総合型スポーツクラブの運営は、財源面で自立が困難。NPOは行政の下請け組織ではなく、活動のPDCAを回す上でも経営基盤の強化は重要です。行政と連携することで地域の課題解決に寄与できます。そのためには、地域で必要とされるクラブであることが絶対条件。地域の課題探しからスタート。
その過程で子供から高齢者まで、各種スポーツに対する欲求が高いにも関わらず、行政、民間とも応えていませんでした。高齢化に伴い増え続ける医療費や介護費用について運動教室の効果も指摘されています。こうした効用をもとに行政に対し、年代ごとのプログラムを提案、受託事業として実施しています。地域や行政の課題に応えることによって、地域が求めるスポーツクラブとして初期の目的に合致した活動を行っています。
第6講 テーマ 「少子・高齢社会を支える地域運営組織 ~ 自立した組織づくりの方策」
2017年10月3日(金)13:30~16:30 名古屋栄ビルディング 特別会議室(12階)
「 自治を回復し、まち・むらの課題を、まち・むらの力で解決するために ― 協働から総働・小規模多機能自治へ ― 」
IIHOE【人と組織と地球のための国際研究所】代表者兼ソシオ・マネジメント編集発行人 川北 秀人 氏
急激な高齢化や人口減少が進む中で、地域の課題解決は、特定のリーダーに頼ることなく、仕組みとしての地域づくりが重要です。誰かが何とかしてくれるという甘えを捨て、「協働」から、地域住民が地域のおかれている状況を理解した上で小規模多機能自治をめざす「総働」に移行することが必要です。まちの力には関係の密度がポイントとなります。
地域では人口の高齢化と同時に、ハコモノ・インフラの高齢化も進行。しかし、新設はおろか更新する財源もありません。何を残すか、選択が必要となっています。また、住民の日々の暮らしにおいて、何が本当に大事なのか、行政はわかっているのでしょうか。地域づくりで歴史や文化といった個性も必要ですが、人口や産業・地勢など、地域特性を踏まえた施策を進めることが重要です。自治会活動も従来の「行事型」から福祉や経済などに重点をおいた「事業型」へ、小規模多機能自治への転換が急務です。
「小規模多機能自治による住民主体のまちづくり ~ 雲南市の地域自主組織」
島根県雲南市政策企画部地域振興課企画官 板持 周治 氏
島根県雲南市では、合併に伴う広域化と行政の限界、人口減・少子高齢化等に対し、市民一人ひとりが自ら考え・決定する地域の自治と、実践・持続する地域の運営を地域(概ね小学校単位)に任す、住民主体のまちづくり(小規模多機能自治)を進めています。
従来の自治会等と小規模多機能自治組織は並立し、それぞれの自助・互助・公助は重層性、補完性の関係にあります。地域自治組織の活動拠点として、従来の公民館を交流センターに改編、センター長を始めとするスタッフは地域で選任(センター職員と地域自治組織の一体化)。市からは指定管理料、活動交付金を支払い、生涯学習だけでなく、地域づくり、地域の特性に合った地域福祉を担っています。安心安全・持続可能性の確保、地域の歴史・文化の活用の視点から活動を進めています。
全国の自治体との情報共有、課題解決のため、平成27年に小規模多機能自治推進ネットワーク会議を発足させ、更なる制度改善に向けた取り組みも行っています。
第7講 テーマ 「子どもの貧困問題とその対策 ~ 待ったなしの問題にどう対応するか」
2017年10月27日(金)13:30~16:30 昭和ビル 9階ホール
「子どもの貧困問題とその対策 ― 子どもにやさしいまちづくり ―」
東洋大学社会学部教授・同社会貢献センター長 森田 明美 氏
我が国では、いわゆる絶対的貧困者は少ないが、OECDの定める相対的貧困者は多く、ひとり親世帯の貧困率はOECD加盟34ヶ国中最下位。子どもの権利の明確化・児童相談所機能の強化・虐待の発生予防等の課題は待ったなしです。
虐待の増加、貧困化、地域環境の悪化、ひとり親家庭の増加といった子どもたちが抱える家庭との確執の実態を正しく認識する必要があります。子どもが家族・親族からの支援が受けにくい現状にあることに対し、子どもの貧困対策の不備と保護者支援の限界などから、子どもの貧困問題は解決していません。①子どもの声が届きにくい、②貧困や家庭内の問題は見えにくい、③福祉問題を抱える人は支援につながりにくい、④福祉施策は利用しにくい、⑤子ども施策の効果は見えにくいなど、子どもの貧困に起因する諸課題の解決のため、子育て世帯の地域での暮らしを支える予防と回復支援により、多様な子どもと子育て家庭と暮らす地域の構築、結果として貧困の克服を実現する自治体の取組みが求められています。
「未来へつなぐあだちプロジェクト ―足立区の子どもの貧困対策―」
東京都足立区子どもの貧困対策担当部長 秋生 修一郎 氏
これまで足立区は負のイメージで語られることが多かった。健康・治安・学力などの根底にある共通の原因「貧困の連鎖」を絶つため、足立区は次代を担う子ども支援に取り組んでいます。低所得者対策=子どもの貧困対策ではなく、より幅広く子どもに寄り添う施策です。まちづくりや産業施策も関連があります。「貧困」という言葉のアレルギーを乗り越えることも大切な視点です。
子どもの貧困対策実施計画(平成27年度)では、①生まれ育った環境に左右されない、②子供たちの自立、③子供の成育環境全般の複合的な取組みを基本理念としています。全庁的な取組み、貧困の予防・連鎖を断つ、学校のプラットフォーム化などを図りつつ、教育・学びの環境整備、健康・生活面での切れ目のない支援、国・都への働きかけと合わせ、地域との連携等による推進体制の構築。施策評価は、全国学力調査の平均正答率、都立高校の中途退学者数、養育困難世帯の発生率・解決率等、24の指標で評価しています。
第8講 テーマ 「地域課題と向き合うソーシャルデザインの可能性 ~岡山県総社市長が語る「障がい者千人雇用」の挑戦から~」
2017年11月27日(月)13:30~16:30 名古屋栄ビルディング 特別会議室(12階)
対談 「社会的な課題の解決と同時に新たな価値を創出するソーシャルデザインの可能性 」
岡山県総社市 市長 片岡 聡一 氏
名古屋芸術大学芸術学部芸術学科 准教授 水内 智英 氏
◆本講は、普段のゼミナールと形式を変え、ソーシャルデザインの取組み事例として、岡山県総社市の「障がい者千人雇用」を具体例に、講師2人の対談とフロアーからの意見などを交えたゼミナールを進めました。自治体の政策実現手法として注目されるソーシャルデザインについて、自治体首長の事例紹介も含め、理解を深めることができたと思います。
○地域課題と向き合うソーシャルデザインの可能性(話題提供 水内智英氏)
行政におけるソーシャルデザインとは何か、デザインを行政、デザイナーを行政職員と置き換えたらわかりやすい。デザインは半歩先の未来へ投企すること。①未来の可能性を支える環境づくりと、そのあり方を共有可能な「実像」として描く。②デザインは障がい者雇用を始め、社会の困難な状況の中で種を蒔くことであり、不確実な未来に向けたプロセスをラフな形で描く。③取組みの過程で関係者の認識や意識に変化が起こり、不可能と思っていたことが可能と思えるようになる。④関係者一人ひとりがそれぞれの立場で関わる仕組みが用意されています。
未来を描くことが困難で、利害関係者が複雑に絡み合う今日社会ほど、行政にソーシャルデザインが必要とされているときはないと思う。
○「障がい者千人雇用」の挑戦(話題提供 片岡聡一氏)
私の政治家としての使命は、身体的、地域的マイノリティなどの弱者に徹底して寄り添うことだと思っています。まちの中に住む人、郊外に住む人、健常者も障害者も納める税金の大枠は同じ。ただ、税の配分は均等である必要はないと思う。
市長就任後に始めた「障がい者千人雇用」を始め、1乗車300円で郊外部のお宅と市中心部の目的地を8~10人乗りワンボックスカーを使い1時間おきにデマンド方式で結ぶ「新生活交通・雪舟くん」、人口減少が続く郊外部の小中学校・幼稚園で特色ある教育を行う「英語特区」「新教育特区(音楽・体育)」などが取組み例です。費用対効果からすれば、施策の多くは市中心部や健常者にシフトしがちですが、ハンディキャップを是正するために軸足をどこに置くか、勇気をもって施策のデザインを描く人間が必要だと思う。
○対談
(水内)市長が進めてきた施策において、大きな変化が動き出すターニングポイントとなったのはどういうところか。
(片岡)提案に対し、当初できないと言っていた職員自らが動き実践を積み重ね、信頼関係ができることで、職員が施策実現に自信を持つようになった。施策の拡大に当たって、予算確保が必要なときには議会や市民に対し、その必要性を訴える立場に変わっている。
(水内)デザイン(政策)は、どこまで社会の中に入っていけるか。
(片岡)施策はデザイナーだけではできない。行政で言えば、あの人(リーダー)と一緒にやりたいという職員との関係を作り上げていくことが必要。大きなビジョンを掲げるだけでは前に進まない。施策の細かな部分での地道な取組みの積み重ねが不可欠です。目標となる施策があって、職員提案も含め多様な施策を組み合わせているものも多い。
(水内)ソーシャルデザインは一人ではできないものですね。多くの人を巻き込んで社会を変えることが必要。リーダーとなる人のポジティブな姿勢には、人を巻き込む力がある。
(片岡)これからの地域づくりには、金太郎飴のような施策への補助金ありきではなく地域の独自性を発揮する取組み、地域間の競争を促すことが必要だと思う。地域の独自性の強化と地域間競争は、市民レベルを高めます。さらに地域独自の施策を展開する裏付けとして、それぞれの自治体が自前の財源を確保することも忘れてはならない。
第9講 テーマ 「地域の魅力づくりと文化・アートの役割 ~ これからの文化行政の可能性」
2017年12月7日(木)13:30~16:30 名古屋栄ビルディング 特別会議室(12階)
「 地域の魅力づくりと文化・アートの役割 ~ これからの文化行政の可能性」
鳥取大学地域学部特命教授 野田 邦弘 氏
20世紀が国家の時代であったのに対し、21世紀は都市の時代と言えます。地域の自立的取組、既存資源を活用したソフト施策、地域独自の新産業育成、官民協働など、地域オリジナルの取組みが求められています。従来、文化活動と行政の間には多くの相反する部分があった。それに風穴を開けたのが、個性的な文化の根付いた地域社会の創出をめざす1970年代の行政の文化化の動きです。また、欧州では1985年から特定の都市を選び、1年にわたる集中的な文化事業を行う文化首都制度が始まり、地域経済の活性化、知名度向上、シビックプライドの形成などの効果を挙げています。
脱工業化、サービス産業化などを背景にして創造都市論が台頭。官民の枠を越え、多様な文化芸術活動を通じてクリエイティブ人材の育成・移住による付加価値の高い創造産業が生まれ、地域の活性化につながっています。2017年6月に文化芸術基本法が改正され、その中で文化・芸術を活かしたまちづくりが明記されています。
「可児市文化創造センターの挑戦」
岐阜県可児市文化創造センター館長兼劇場総監督 衛 紀生 氏
可児市文化創造センターでは、「アーラまち元気プロジェクト」をはじめとする社会包摂型劇場経営を行っています。地域共生社会を実現するための社会機関としての活動を劇場経営の基本姿勢とし、経済的・社会的・心理的に劇場から遠くにいる人たちに果実を届けるように努めています。そのためには、ハコモノ行政として批判の対象とされてきた従来の劇場運営を取り巻く常識を打ち破らなくてはなりません。
社会的に孤立しがちな人々の生きる意欲を醸成し、そのポテンシャルを社会発展に反映させる仕組みが「社会包摂」と言えます。文化芸術には、共創性という複数の人間が関わりあって新しい価値=仲間・コミュニティをつくる力があります。市内の様々な機関と連携し、「私のあしながおじさんプロジェクトFor Family」をはじめ、音楽や演劇を通した年間467回のプロジェクトを実施、社会的に弱い立場におかれている人々を精神的・社会的に孤立させない「まち元気」をめざす活動を展開しています。
第10講 テーマ 「シティプロモーション・失敗しないための戦略」
2018年1月22日(月)13:30~16:30 昭和ビル 9階ホール
「シティプロモーションの新たな展開」
東海大学文学部広報メディア学科教授 河合 孝仁 氏
まちづくりは、行政だけが頑張ってできるものではありません。自分事として、まちに関われる人を増やすことが重要です。地域推奨量+地域参加量+地域活動感謝量の総和を私は「地域参画総量」と呼んでいます。耳触りのよいロゴづくりや参加者数ではなく、地域(まち)にマジになる人をどれだけ増やせるかが、シティプロモーションの目的だと思います。行政は、誰が幸せになれるまちか的確なデザインを行い、域内外の住民(関係人口)が自発的に動きたくなる地域の土台、仕組みをつくることが大事です。
地域の魅力を語ることのできる人の多くは、自分は意味のある人間だと思っています。彼らが地域の魅力を発信、共有、編集、磨き上げてブランド化する地域魅力創造サイクルと合わせ、各段階に応じたメディア活用を行いながら、認知獲得、関心惹起、着地点整備、行動促進へ展開します。我々が求めるのは、顧客としての住民ではなく、このまちを一緒につくろうとする参画者であり、行政は信頼性やマネジメント力で支える役割があります。
「じっくり市民を巻き込む富士市のシティプロモーション」
静岡県富士市総務部シティプロモーション課 上席主事 大道 和哉 氏
平成25年策定の都市活力再生ビジョンにおいてシティセールス強化が取り上げられたが、当時の担当者の認識は、富士市のメディアでの取り上げ回数等にあったように思う。28年4月、市民参画総量を増やすブランドメッセージ大作戦を開始。キャッチコピーづくりではなく、「発散」→「共有」→「編集」の地域魅力創造サイクルワークショップを通じて、富士市がめざすまち、オンリーワンの強みを活かす経営理念を作る姿勢で臨みました。
さまざまなレイヤーの議論を経て決まったブランドメッセージが「いただきへの、はじまり 富士市」。富士市の魅力を知ってもらう「認知」、富士市を好きになってもらう「信頼」、シビックプライドを醸成し魅力を語れる市民の増加「愛着」という3つのステップで、市民参画総量の増加を図っています。市民の信頼、共感を得るためには、じっくり(焦らない)、巻き込む(役所だけでは完結しない)ことがポイント。まちの魅力を語る職員、中学・高校生対象のワークショップ、フェイスブックの活用等も実施しています。
第11講 テーマ 『女性の視点を生かす地域づくり~多様な人々に暮らしやすいダイバーシティ都市を目ざして』
2018年2月5日(月)14:00~16:30 TKPガーデンシティ栄駅前 バンケットホール
「女性の視点を生かす地域づくり~多様な人々に暮らしやすいダイバーシティ都市を目ざして」
名古屋芸術大学芸術学部芸術学科 准教授 萩原 なつ子 氏
今日、地域活性化・地方創生を進めるための重要なキーワードとして、新しい公共(共助社会)、連携・協働、男女共同参画が挙げられます。背景として、社会的課題の多様化があります。しかし現実は、同質のものが余りにも多い社会です。ダイバーシティとは、同質の社会から多様性のある(認める)社会への転換を図ること。一方、国や市町村による公共サービスの質と量の拡大も困難な状況です。多様なサービスには、多様な主体が参加・参画して地域の課題に取り組むことが必要です。
地域づくりにおいて、女性のニーズに合うこととは、社会の皆に優しく、ユニバーサル化することとも共通します。
平成26年5月、日本創生会議が発表した「消滅可能性都市」として、東京23区で唯一指摘されたのが東京都豊島区。暮らしやすい、住み続けたいまちであるためには、区が進めてきた女性に優しいまちづくり施策と重なる部分が多いようです。このため、女性の視点から豊島区の未来を考えるワールド・カフェ方式の「としま100人女子会」を開催(同年7月)。これを受け、女性の意見やニーズをまちづくりのプランとして区に提案する、20~30歳代の女性を主体とする「としまF1会議」を設置。6チームに分かれた会議からは、子育て、まちづくり、ワークライフバランス、豊島ブランドなどについて、具体的な施策案が同年8月から5ヶ月間の短い間に提案され、次年度の区の施策として予算化、動き出した。
消滅可能性都市からの脱却は容易ではないが、F1会議の提案は、区役所だけに委ねるのでなく、区民や区内の事業者もともに「住みやすい、暮らしやすい」地域づくりの担い手、主体という当事者目線がダイバーシティ都市づくりに大切です。
第12講 テーマ 「人口をV字回復させた都市戦略」
2018年3月16日(金)14:00~16:30 名古屋栄ビルディング 特別会議室(12階)
「 地域の魅力づくりと文化・アートの役割 ~ これからの文化行政の可能性」
兵庫県明石市 市長 泉 房穂 氏
明石市では、人口を始めさまざまな指標のV字回復が続いています。今日の自治体経営には発想の転換が必要です。時代の変化を読むこと、まちの特性を知ること、市民ニーズに応えること、市民目線からの施策展開などがポイントです。地域の特性や都市機能を把握し、どんなまちにするか明確なビジョンが必要です。明石市は、産業や遊びなど全ての機能を備えた都市を目指すことなく、「暮らすこと」、「育てること」に特化し、子どもを核とし、セーフティネットの充実を重視したまちづくりを選択しました。人口30万人、赤ちゃん出生年間3,000人、市立図書館の貸出し年間300万冊という「明石のトリプルスリー」をまちづくりの目標として設定、その具体化の取組みとして、子どもを育てやすい、暮らしやすいまちづくり、納税者となる中間層の転入促進、市民ニーズに応える施策等に取り組んでいます。
明石市では、3つのことに重点的に取り組んでいます。①頑張るこどもたちをまち全体で応援」し、「ひとりひとりの子どもに寄り添う」ことを重視しています。こども医療費の無料化、第2子以降の保育料の無料化、教育環境の充実、図書館の駅前立地など本のまちの推進、児童扶養手当の毎月支給、全小学校区へのこども食堂の設置、児童相談所の設置などに取り組んでいます。②「障がい者が暮らしやすいまち」づくりは行政の責務と考え、手話言語・障がい者コミュニケーション条例、障がい者配慮条例、筆談ツールやスロープなどに対する公的助成制度の整備など、「誰もが暮らしやすいまち」を実現する取組みを進めています。③「被害者支援と更生支援は車の両輪」であり市民に近い自治体が担うとの考えのもと、犯罪被害者等総合支援条例や更生支援ネットワーク会議などを設置し、自治体が寄り添って支援しています。
お互いに助け合い支え合うことが“あたりまえ”の社会づくりを、明石から発信していきたい。明石市でできることは、他の自治体でもできます。市町村職員の皆さんには、真摯に聴く姿勢、本質を見抜く力、諦めない勇気を期待します。