H30.第1-12講
第1講 テーマ 『“関係人口”が地域を変える』
2018年5月18日(金)13:30~16:30 IMYビル 3階会議室
”関係人口”が地域を変える
ローカルジャーナリスト 田中 輝美 氏
ローカルジャーナリストという仕事を始めたきっかけは、情報の東京一極集中の現状を見て、地方に暮らしながら地方発の情報を発信したいからです。島根は過疎地域として課題が多く、全国からチャレンジャーが集まり、今や課題解決の先進地となっています。
交流人口と関係人口の違いは、よそ者を消費者としてだけ見る(交流人口)のではなく、ともに地域をつくる “仲間”として受け入れる(関係人口)ことにあります。課題が多いとは、“関わりしろ”が多いことを意味します。移住・定住しなくとも地域に関わりたい人が、今、増えています。地域の“力”になっていることの体感が大切です。移住・定住は結果です。地域をつくるのは、よそ者ではなく、やはり地元の人たちです。
地域と関わりたい人を生かすかどうかは、地域次第です。関係人口を増やす取り組みのひとつに、2012年から島根県が主催している「しまコトアカデミー」があります。自分の関わりしろ、役割をそこに見つけられることが大事です。
地域をアクティブ化する仕組みづくり~しまコトアカデミーのつくり方
しまコトアカデミー 事務局、シーズ総合政策研究所 藤原 啓 氏
地域おこし協力隊の例に見られるように、島根に来て欲しい人材を東京で募集しても中々集まりません。2012年にスタートした「しまコトアカデミー」は、島根との「関わりしろ」づくりを大切にした講座、移住・定住がゴールではないゆるい講座等、愛着のあるコミュニティづくりをめざしています。東京、大阪での座学のほか、島根でのインターンシップでは、受講者の意識が大きく変わります。講座で学んだ地域課題、地域の人々とのコミュニケーション等が、移住・定住に結び付くだけでなく、都会に住む受講生の仕事や地域活動においても多くの方が島根との関わりを持つようになっています。
しまコトアカデミーからの発展形として、受講生が主体的に島根との関わりを拡大する形で、「しまコト関西」、「しまコト・しごとカレッジ」、「しまコト女子講座 meets my life」などのほか、首都圏から「しまね」にコミットする仕組みとして「ビギナーズ講座」、「しまねつながるプロジェクト」なども動き始めています。
第2講 テーマ 「多様性を尊重するまちづくり ~LGBTの理解を契機に」
2018年6月11日(月)13:30~16:30 昭和ビル9階ホール
多様性を尊重するまちづくり ~ LGBTsの理解を契機に
特定非営利活動法人 ASTA 共同代表 松岡 成子 氏
LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)は、性的マイノリティーの総称のひとつです。LGBTの中にも前3者の性的指向を示すものと、4つ目の性自認を示すものが含まれます。近年は、性的指向と性自認に関しては、誰もがLGBTsのグラデーションのどこかにいる当事者として、全ての人の生きやすさに結び付ける、SOGI(Sexual Orientation & Gender Identity)の考えが重視されています。
電通LGBT調査2015によると、我が国のLGBTは総人口の7.6%(約965万人)と言われます。このように多くのLGBTがいても我々に見えないのは、「言えない」「言わない」人が多いと思います。多くのLGBTの存在を理解したとき、大切なことは「性別」ではなく、「人柄や人格」ではないでしょうか。私たちは、「ALLY(アライ)」(LGBTを理解、支援したい人)を増やし、カミングアウトしなくても安心して生活できる社会をつくること、誰もが誰かのALLYになることをめざしています。
岐阜県関市におけるLGBTの取組み
岐阜県関市 市民協働課 課長補佐 河合 康紀 氏
岐阜県関市では、性の多様性を認め、すべての市民がお互いを尊重し合い、誰もが自分らしく暮らせることを目指し、LGBTに対する配慮に向けた取り組みを始めるべく、平成28年8月に「LGBTフレンドリー宣言」を行い、その決意を表明しました。
具体的には、市職員・教員の意識改革を図るLGBTセミナーの開催、LGBT支援に対する庁内検討委員会設置等(平成28年度)、LGBTハンドブック作成、公共施設トイレの表示変更、市独自の申請書及びアンケート等の性別記載210文書中77を削除、印鑑証明の性別欄削除の条例改正、「広報せき」でのLGBT特集等(平成29年度)、小学生向け紙芝居作成、高校生主催によるダイバーシティ・シンポジウム等(平成30年度)の取組みを行っています。また、行政の取組みのほか、市内企業でのLGBT対応、中学校のLGBT教育、高校でのLGBT啓発グループの誕生など、その輪は広がりつつあります。
第3講 テーマ 「人口減少期の都市計画に向けて ~リアルな都市のたたみ方」
2018年7月11日(水)13:30~16:30
人口減少期の都市計画に向けて~リアルな都市のたたみ方
首都大学東京 都市環境学部都市政策科学域 響庭 伸 氏
人口の急減に伴い都市空間がどう変わり、どのような問題が発生するのか、これに対して都市計画はどのような政策をとったらよいのかお話ししたい。人口減少時代の都市計画に重要なキーワードは、①ミティゲーション(緩和政策)と②アダプテーション(適応政策)です。対症療法ではなく、人口減少社会に都市をどのように適応させていくアダプテーション政策が必要です。コンパクトシティが唱えられていますが、スプロールで広がった市街地の大きさは縮小しません。市街地に小さな穴が空くように空き家や空地が増えていきます。私は、これを都市のスポンジ化と呼んでいます。
都市のスポンジ化は、個々人の都合で起きる現象です。①ゆっくり、②個人が、③小規模で、④様々なものに、⑤あちこちで変わるなどの特徴があります。こうした特徴を踏まえ、時間をかけ、人のつながりを活かしながらスポンジの穴を一つずつ埋めていくことが、コンパクトシティに向け、地に足の着いた都市のたたみ方と言えます。
山形県鶴岡市における都市計画と都市再生への取組み
山形県鶴岡市都市計画課 課長 岡部 信宏 氏
山形県鶴岡市の人口は、2010年の136,000人余から2040年には94,000人余へと減少が予測されています。とくに中心市街地の人口減少や高齢化が著しく、空洞化が進み、増加する空き家・空き地、老朽住宅、狭隘道路などの課題を抱えています。市街地の郊外部への分散抑制と、市立庄内病院や総合保健福祉センターなどの中心部への移転、整備、バス網の充実などコンパクトシティをめざした施策を進めています。
2017年策定の鶴岡市都市再興基本計画(都市マス+立地適正化計画)では、中心市街地への公共施設集積のほか、ホテルやバスターミナルを始めとする民間誘導施設等整備事業、先端研究産業の誘導、空家・空き地・狭隘道路を一体のものとして再生を図るランドバンク事業、所有者から寄付された空き家を解体・整地して若者世帯や移住者に供給する中心市街地居住促進事業など、コンパクトシティ実現に向けた取り組みを進めています。
第4講 テーマ『スポーツによる地域活性化 ~スポーツイベント・スポーツツーリズムを活かす』
2018年8月2日(木)13:30~16:30
スポーツによる地域活性化~スポーツイベント・スポーツツーリズムを活かす
早稲田大学スポーツ科学学術院 間野 義之 氏
日本で大きなスポーツ大会が開かれる2019年から21年までの3年間を、私は「ゴールデン・スポーツイヤーズ」(GSYs)と名付けています。愛知・名古屋では2026年にアジア競技大会も開かれます。スポーツの力で観光や情報発信など、地域振興ができるのではないか。スポーツのレガシーは、ハード面に止まらず、文化、経済、環境、社会問題など幅広い分野に及びます。レガシーを継続的に創り、伝えるのは開催自治体となります。
スポーツが地域に及ぼす効果として、消費、雇用、税収などの経済効果、コミュニティ再生、地域愛の源泉、若い世代への夢の付与などの社会的効果・心理的効果があります。交流人口の増大、定住人口の増大、地域住民がいつまでもいきいき暮らす、産業創出、雇用拡大、QOLの向上など、各地のスポーツを通じた地域活性化事例は数多くあります。GSYsを好機ととらえ、事前キャンプ、健康増進活動、観光・誘客、文化プログラム、共生社会創りなど、他人ごと、他所ごとから、自分ごと、我々ごととして取り組んでほしい。
市民参加型耐久スポーツを通じての人づくり、地域づくり
株式会社トライアーティスト 代表取締役 竹内 鉄平 氏
私からは現役の選手として、また会社を起して取り組んでいるスポーツビジネスを通じた経験から、トライアスロンに代表される市民参加型耐久スポーツを中心にスポーツが地域に与える影響や人づくりについてお話ししたい。
地域を巻き込んだスポーツイベントの事例として、伊勢志摩・里海トライアスロンがあります。6回目を迎えた2018年大会は940名余の参加者を数え、参加費と協賛金で運営できるところまで成長してきました。イベント事業費や宿泊、飲食などの直接的な経済効果のほか、人々との触れ合い、スポーツが持つ価値の共有、地域コミュニティ形成など、「する」「見る」「支える」ことを通じ、スポーツイベントが地域にもたらすものは大きい。最近では、各地でトライアスロンのほか地域を巻き込んだトレイルランニングレース、ロゲイニングなど、さまざまな形態の耐久型スポーツイベントの開催が増えています。
第5講テーマ 『企業との連携による行政力の向上 ~行政経営のパートナーとして』
2018年9月28日(金)13:30~16:30
企業とつながる自治体~行政経営のパートナーとして
株式会社チェンジウェーブ 代表 佐々木 裕子 氏
「人」が変わり、化学反応を起こし、行動を起こす瞬間を仕立てるのが、変革屋たる私の役割です。イノベーションを起こすには、多様な人材が関わることが必要です。長野県塩尻市で始まったMICHIKARAの取組みは、課題を抱える行政の担当職員と民間企業人が完全フラットなチームを作って、行政課題の解決策を提示する活動です。新しい視点での空き家対策、子育て女性の就業支援、塩尻産木材で暮らす街などの森林資源活用策、高校生起業家育成事業など、行政施策として事業化しています。塩尻市では、民間と協働して事業を進めることが、行政経営システムのひとつの柱として位置づけられています。
変革は、論理で起こすことはできません。変えたいと本気で思い、多様性の力を信じ、実際に動き、波を起こす「ヒト」たちが存在し、化学反応を起こすことが出発点です。
情報発信日本一をめざして~民間企業と連携した「電子広報」から始まる取り組み
茨城県行方市 市長 鈴木 周也 氏
行方(なめがた)市は、歴史や自然、農産物を始めとする特産品などに恵まれた土地であるにも関わらず、難読市のひとつです。情報発信で日本一をめざす取り組みも、行方市を多くの人に知って欲しいことが出発点です。市民全員が情報の発信源となること、行政と市民の情報共有が必要です。市政情報を誰にでも、分りやすく、情報共有するため、紙媒体の広報紙とあわせ、MCCatalog導入による広報紙の多言語対応デジタル化を平成29年5月から始めました。スマートフォンで手軽に読めるほか、デジタル化により多言語対応(10言語)が容易になったこと、国内外を問わない情報発信、広報紙以外のハザードマップ、観光パンフレット、ごみカレンダーなど市情報のデジタル化も行っています。
デジタル化は、市政や歴史、文化などの情報共有のほか、行政コストの節減、アクセス情報の活用など、多くの成果を生んでいます。
第6講 テーマ 『誰もが取り組めるボウサイ ~地区の防災力を高める手法』
2018年10月11日(木)13:30~16:30
「 誰もが取り組めるボウサイ~地区の防災力を高める手法 」
跡見学園女子大学 教授 鍵屋 一 氏
災害は、誰もが体験したことのないことに突然襲われるものです。事前の計画と訓練が大切です。災害時の避難行動から、家族や地域が果たす役割が大きいことが明らかです。しかし、高齢化、近所付合いの減少、町内会活動への不参加、消防団員数の減少のほか、自治体職員数も急減しています。つまり、自助は高齢化、単身化に伴い弱体化しているほか、共助は町内会不参加、消防団員の減少等で弱まり、公助については行政職員の減少で弱体化というのが、今の社会の姿です。防災において地域が果たす役割はますます大きくなっています。
地域防災計画の要点は、弱くなった共助の強化にあると考えます。地域の助け合いが強まれば、自助、公助も強くなります。人を健康で幸せにするのは良い人間関係に尽きます。自分は大丈夫と言う「正常化の偏見」を打破することが防災教育のスタートです。また、行政のBCPは、地域の共助を支える上でも災害時に通常業務をできるだけ絞り込み、災害対応業務人員を確保することだと思います。
ボウサイをデザインと企画の力で訴求する取り組み
株式会社R-pro 代表 岡本 ナオト 氏
私は、3.11の後、「非常食定期宅配サービス」を始めました。半年ごとに非常食を宅配するので、賞味期限や置き場所を気にする必要がないほか、常に災害を意識してもらえます。我々が取り組むYamory(ヤモリ)の全体図は、①ワカモノ向けに意識しない防災をめざすプロダクト・サービス、②子供たちにボウサイを当たり前にする教育、③ボウサイ×テクノロジーで未来のボウサイをイメージする、3本柱の活動を展開中です。
ワカモノ向けの取組みとして、街中での被災を疑似体験する「YAMORI CAMP」、非常時にロープとして活用できるパラコードを使ったアクセサリーを福祉施設で作る「LOOPS」などの活動、ボウサイ教育として、ゲームで防災を学ぶ「いえまですごろく」、「KIMARI」、ボウサイ×テクノロジーでは、WEBマガジンで未来のボウサイを発信しています。今後の展開として、非常食定期宅配を広めるためのリニューアルのほか、レスキューとボウサイが連携した「家守防災服」を通じてボウサイ意識を高めたい。
第7講 テーマ 『地域共生社会の実現を目指して~地域福祉計画を活かす』
2018年11月8日(木)13:30~16:30
地域共生社会の実現を目指して~地域福祉計画を活かす
同志社大学社会学部社会福祉学科 教授 永田 祐 氏
家族、地域社会、会社など個人と社会を結び付けていた機能が低下し、さまざまなリスクが直接個人に降りかかり、社会的孤立が深刻化しています。しかし、従来の分野別・縦割り支援では対応できず、制度に横糸を通し、身近な地域で「我が事」「丸ごと」のによる全世代全対象型の地域共生社会を実現することが、社会福祉法改正の背景です。
地域生活課題について、地域住民等と支援関係機関が連携して解決を図ることを推進するために、行政が行う施策を定めるのが地域福祉計画です。地域福祉計画についての改正のポイントは、①地域福祉計画策定の努力義務化、②上位(基盤)計画としての位置づけ、③包括的な支援体制構築の位置づけ、④進行管理及び評価の努力義務化があります。境界を越えた協働が創造する新しい可能性を実現するため、お互いが「のりしろ」を出し合う計画づくりが協働実践であり、みんなが元気になれる仕組みづくりとなります。
名張版地域共生社会の構築について~三重県名張市の実践
三重県名張市福祉子ども部地域包括センター 藤本 勇樹 氏
高齢化の進展に伴い、国は地域包括ケアシステムの構築を急いでいます。住民主体の生活支援のサービスを掲げ、支える側を増やそうと法律改正がなされました。
名張市では、地域共生社会をめざし「我が事」の意識を高めるため、従来の174の自治会等を廃止し、小学校区単位で15の地域組織に再編しました。子育て広場や住民と教育との連携、有償ボランティアによる生活支援などにより地域のつながり、互助(地域力)を高めています。「丸ごと」の相談支援体制として、15の地域組織単位に専門スタッフが核となって健康・福祉の総合相談や健康づくり、介護予防、見守り・支援ネットワークづくり等を行う「まちの保健室」を設置。また、「多機関の協働」を実現するため、地域づくり組織、まちの保健室と連携、高齢、障害、児童、困窮、教育の各分野で任命された5名のエリアディレクターが関係者の連携調整を行っています。
第8講 テーマ 『地域密着型ビジネスで地域経済の好循環を生む』
2018年11月22日(木)13:30~16:30
生き残りをかけて、地域で未来の種を育てる~「郡上カンパニー」における官民協働チャレンジのつくり方
郡上カンパニー事務局・ディレクター 小林 謙一 氏
岐阜県郡上市市長公室 室付部長 置田 優一 氏
郡上市の大きな柱のひとつに「観光立市郡上の推進」があります。地域の宝を磨き、地域社会全体を豊かにしたい。観光客の消費を地域の中で経済循環させたいと考えています。そもそも人口減少を背景に当地で移住促進事業が始まりましたが、地域の担い手の拡充、新規雇用創出を図ることにステップアップして、「郡上カンパニー」の取組みにつながっています。人口減少は止められないが、地域を創る担い手は減らない仕組みづくり。
郡上を舞台にした郡上らしい挑戦の仕組みとしてのローカルベンチャーを育てることが郡上カンパニーの役割です。郡上の人が自分の「やってみたい」を形にする場としてローカルアイデア会議で議論し、共創ワークショップに都市部の人が参加、その過程で絞り込んだ未来事業プロジェクトを郡上の人と都市の人が一緒に共同創業、3年以内の起業をめざす取り組みです。郡上カンパニーの活動は、都市か地方かという二極対立を超え、都会の若者との官民協働のチームづくりと言えます。
長野県飯田発、集まった人が次々と輝く、ローカルプロジェクト
株式会社週休いつか 代表取締役 新海 健太郎 氏
長野県飯田市には、「自分たちのことは自分たちでやる」という風土があります。私たちは、飯田市の「丘の上」と呼ばれる中心市街地に、地域に関わる人たちの「たまり場」を何か所も開設しています。「何かをやりたい、やりたいことを実現したい」人が集まりつながる場としての「裏山しいちゃん」のほか、シェアカフェを始め起業サポート的な場の色合いが強い「山羊印カフェ」、高校生のためのシェアスペースとして始め市内高校生全てに届く情報誌PUSH!!を発行する「桜咲造(さくらさくぞう)」などを開設、運営しています。
不確実性が高い現代社会では、変化に対応できる「場当たり力(計画的偶発性)」が重要です。受動性、自主性から内発性を大切にしたい。内発性を醸成すると、偶発的な出会いが生まれ、自律性や創造性が高まります。自立分散協調を地域に広げるファシリテーターを増やし、心の底から「やりたい」と思うことを実現する地域づくりをめざしています。
第9講 テーマ 『所有者不明土地の課題と活用に向けた方策』
2018年12月11日(火)13:30~16:30
所有者所在不明土地問題を考える
早稲田大学大学院法務研究科 教授 山野目 章夫 氏
所有者不明土地とは、相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索をおこなってもなおその所有者の全部又は一部を確知することのできない一筆の土地(所有者不明土地法2)を言います。
所有者不明土地問題へ対応するために、(1)所有者及びその所在を明らかにするための措置として、①登記を促す上で必要な登記官の調査権限の拡充や、所有者へ登記手続きの勧告、税制上の誘導措置、②変則的な登記手続きの簡略化など登記方法の工夫、また(2)所有者及びその所在が明らかとならない土地について、都道府県知事による裁定で収用できる制度改革のほか、知事の裁定に基づいて地域福利増進事業のために土地の使用が一定期間認められることなどが、所有者不明土地法において定められました。
所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法について
国土交通省土地・建設産業局企画課 課長補佐 栗山 達 氏
所有者不明土地の増加は、公共事業の推進等において大きな支障となっています。所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(所有者不明土地法(平成30年6月13日公布、平成31年6月1日全面施行))は、大きく①所有者不明土地を円滑に利用する仕組み、②所有者の探索を合理化する仕組み、③所有者不明土地を適切に管理する仕組みが規定されています。
本法の運用により、収用事業における所有者不明土地は、土地収用法の特例措置として都道府県知事の裁定手続により円滑な事業実施が図られるほか、地域福利増進事業事業者の範囲拡大、国又は地方公共団体の長は家庭裁判所に対して不在者の財産や相続財産の管理人の選任を請求できること、土地所有者等関連情報の利用及び提供措置など、所有者不明のため管理不全土地の有効利用・適正管理などへの効果が期待されます。
第10講 テーマ 『公共資産の利活用 ~多様で魅力的な都市空間の演出』
2019年1月15日(火) 13:30~16:30
「AI・RPAの導入による地方自治体の働き方改革」
東海大学政治経済学部政治学科 教授 小林 隆 氏
限られた人員で新しい行政サービスに対応するには、AIやRPA(Robotic Process Automation)の導入は不可避だと思います。世界的にAIはどんどん進化していますが、我が国はその活用が極端に遅れています。RPAとは、人間が行う全てのパソコン作業をロボットにより自動化する技術のことで、パソコンを使うあらゆる作業にロボットを導入することができます。
各地でAIを使った行政サービスの取組みが始まっていますが、多くは市町村内のシステムに止まっています。AIはデータを集めれば集めるほど処理のノウハウが蓄積されて高機能になるため、自治体間の連携が大切です。民間データも含めることができればもっと精度が向上し、コストダウンも期待されます。機械学習を基本とするAIやRPAと、自己言及的・閉鎖的になりがちな人間の違いをしっかり理解したうえで、AI・RPAの導入による地方自治体の働き方改革が必要です。
RPAを活用した業務改革
熊本県宇城市 総務部 市長政策室 行政経営係 主幹(係長) 溝上 敬浩 氏
平成17年に宇土郡、下益城郡の5町合併により発足した宇城市は、人口減少や行政改革に伴う市職員数の削減が進む中で、熊本地震により被災し、復興業務を始めとするマンパワー不足が顕著となりました。そこで平成29年度には、総務省の業務改革モデルプロジェクトの指定を受け、RPA等を活用した窓口業務改革をスタートさせました。全庁にわたる業務の棚卸を行い、実証実験としてふるさと納税業務において、これまで手作業で行っていたインターネットによる寄付情報の取り込み事務にRPAを導入しました。
平成30年度からは、ふるさと納税業務のほか、住民異動届、職員給与、会計業務、後期高齢者医療など、RPAによる自動化の範囲を拡大しています。導入により付加価値の高い業務に人と時間の再配分が可能となりました。今後に向けてコストダウンや精度を高めるため、手書き書類のデジタル化、業務プロセス等の標準化、利用範囲の拡大によるクラウド化などが課題となっています。
第11講 テーマ『市民団体の自律性を高める ~ガバナンスの効いた組織づくりを支える』
2019年2月4日(月) 13:30~16:30
地域協働型のインフラ管理
岐阜大学工学部 教授 倉内 文孝 氏
笹子トンネル天井板崩落事故を契機に、老朽化する社会インフラのメンテナンスが大きな行政課題となっています。市町村の土木系職員が減少し、土木予算が縮小する中で、社会インフラの管理責任を行政のみで果たすことができるでしょうか。従来の行政主導の管理体制を見直し、地域内で維持管理サイクルが成立するよう各主体の役割や連携方法の検討が必要です。公共・民間の土木技術者のスキルアップを目指す取り組みに「ME」(社会基盤メンテナンスエキスパート)があります。養成講座を受け、幅広い形式知と暗黙知を併せ持ち、決断力と行動力を持つ技術者集団がMEです。
共助社会時代に求められる、地域協働型インフラ管理のモデル事業として、中津川市神坂地区の事例があります。身近な社会インフラの協働点検にMEのほか、住民、行政等が参加し、住民目線でインフラ診断の結果を取りまとめることで、行政だけに止まらないインフラ管理の可能性も出てきます。
インフラのまち医者MEの役割―中津川市神坂地域での協働点検―
丸ス産業株式会社 常務取締役(MEの会 事務局) 加藤 十良 氏
社会基盤メンテナンスエキスパート(ME)は、社会人の学び直しを通じて、他セクターや専門家との協調、統合により、専門化した技術社会で多角的に構造物を評価できる地元の総合土木技術者たるインフラの「まち医者」を目指しています。ME認定後も継続して研さんと相互協力、社会貢献の場を提供するため、養成カリキュラム修了者は各期で同窓会(MEの会)をつくり、活動を継続しています。
中津川市神坂地域における活動もそのひとつです。過疎化と高齢化が進む中での地域づくり、地域の自然災害の危険を学び減災力を高めるため、住民とMEが一緒に取り組んでいます。MEはプロボノとしての活動、MEの会の人的ネットワークを活用して個々のMEが持つ専門性を統合し、専門機関への橋渡しも含め、問題解決のお手伝いをしています。
協働コーディネーターの役割 -中津川市神坂地域での取り組み-
パブリック・ハーツ株式会社 代表取締役 水谷 香織 氏
社会の合意形成とは、政策や計画作成、事業実施を行う際に多様な利害関係者の満足、納得を目指して前向きに話し合いをするプロセスです。
協働コーディネーターの役割は、①関係者同士の合意形成を促進することであり、基本手順に沿い社会的な課題に対して行う合意形成で様々な関係者の参加型の政策立案・計画策定プロセス。②コミュニケーション・プロセスの設計、公共施設管理者やMEの会、地域協議会、区長会、住民など多様な利害関係者の企画から協働点検、対応等各段階の潤滑油としての役割。③地域の意思決定としての将来ビジョンへの位置付け、協働点検等の成果を未来志向の地域の姿として住民に描いてもらう。その際、コーディネーターとしては、「基本的な考え方」を押さえること、「聴く」姿勢、「合意形成技術」の習得、実務は「段取り八分」などの諸点に留意することが大切です。
第12講 テーマ『日南市の取組みと今後の行政経営』
2019年3月25日(月) 14:30~16:30
日南市の取組みと今後の行政経営
宮崎県日南市長 﨑田 恭平 氏
人口減少のほか、合併特例債などの歳入減少が進む中で、これまで以上に施策の選択と集中が必要です。自治体においても市民と職員が明快な理念を共有することが大事です。私は日南市の歴史から学んだまちづくりのコンセプトを「創客創人」の四文字に集約しました。創客創人とは、今ある資源から、人々が望む価値を見出し、それを実現する製品やサービス等を創り出し、新しい需要=客を創り、その客を幸せにする仕組みを創ることのできる人を育てることです。
「創客創人」を具体化するため、コンサルタントに計画書だけを提出してもらうのではなく、日南市に住むことを条件とした民間コーディネーターを登用しました。その民間コーディネーターと市職員がチームを組み、油津商店街の再生とマーケティング、飫肥(おび)城下町の再生等を進めています。「創客創人」のコンセプトのもと民間の専門家や行政だけでなく、子どもから大人まで市民みんながまちづくりの意識を共有できたことが大きなパワーとなっています。