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その63 生涯現役の”まちづくり人”として (2019 OCT. ちもんけん VOL.105)

 「公務員にどのようなことが期待されているか、現役時代には見えていませんでした。」少しハニカミながら笑顔で語るのは、高蔵寺ニュータウンセンター開発()で社長を務める尾﨑智央さん。

 

 尾﨑さんは、昭和54年に愛知県庁に建築技師として入庁し、最初に配属された営繕課で、開校予定の高蔵寺高校の新築工事に携わられました。そのご縁もあってか、ご自身の住まいは専ら高蔵寺ニュータウン内を転々とされています。結婚を機に公団住宅に入居したのを皮切りに、お子さんの誕生や成長に合わせて、中層の分譲への転居や中古戸建て住宅の購入と、まさに「住宅双六(すごろく)」を地で行く住まい歴を辿られています。

 

 県庁職員時代には、全体的に住宅計画課の所属が長く、かつての愛知県住宅建設五箇年計画や愛知県住生活基本計画の策定に何度も関わられました。尾﨑さんは、「多くの専門家や学識者と議論を交わし、長期的な視野で住まい・まちづくりについて考えられたことは、特に貴重な経験でした。」と振り返られ、「建築指導課では、地区計画や建築協定、景観形成などを県民の皆さんと一緒に考えたり、視察に行ったりという機会に恵まれて楽しかったです。」と思い出を語られていました。

 「‘住めば都’という言葉があるように、人は場所や住宅の種類に適応して暮らすことができてしまいます。それだからこそ、住宅事業者や住まい手の責務、行政の役割など、より大きなスケールで住まいやまちの環境を捉え、それぞれがバランスよく機能していくようにすることが重要だと思います。」と公務員にとって俯瞰的な視野の重要性を説かれました。

 また、2002年度から2年間、足助町に出向していた際には、既存集落に町外からの転入者に分散して住んでもらう「二戸二戸作戦」や転入希望者と地元を役場職員がつなぎ住まいを紹介する「スマイルしようかい」など、今日的課題でもある中山間地域への定住促進にいち早く取り組んでいます。(ちなみに、定住促進の取組は、現在、愛知県交流居住センターや豊田市のおいでん・さんそんセンターに引き継がれています。) 

 一方、尾﨑さんは「まちづくりマニア」として知る人ぞ知る存在でもあります。1996年から自身のホームページを開設し、2008年からはブログ形式で更新されています。

 これまで自身が歩いたまちのレポートや住まいづくり・まちづくり関連書籍の書評などが、個人の考察を交えて読みやすくまとめられ、バラエティ豊富に展開されています。ここに蓄積された、20年以上のアーカイブはとても有効な資料でもあります。

 ホームページの更新や記事の執筆について尾﨑さんは、「パソコン通信に参加していた頃に、オフ会などを含めて全国のまちづくりに興味を持っている方々と作ったネットワークは今でも大切な財産です。今も続けているブログは、自分の備忘録的なつもりで書いたものが積み上がったものですが、建築・住宅・都市計画などに関連する学会や研究会などの視察や個人的な旅行で多くのまちを訪れる機会もあるため、いつしか膨大になっていました。これからも、今まで以上に自由な視点で楽しく続けていきたい。」とおっしゃっています。 

 2018年3月、尾﨑さんは永年勤めた愛知県庁を定年退職し、高蔵寺ニュータウンセンター開発()に籍を移しました。ここでは、中部を代表する高蔵寺ニュータウンのセンター施設「サンマルシェ」の施設管理が中心で、集客につながる「サンマルシェ循環バス」の運行やイベントの開催なども行っています。尾﨑さんは、「周りからは、公的な企業()として社会貢献活動への期待も聞きますが、民間企業としては、採算性を無視した取組はできませんし、ワンセンター方式をとる高蔵寺ニュータウンにとってサンマルシェを永続させることが私たちに課せられた最大の任務であり、社会貢献であると考えています。」と経営者としての責務を語られました。

 

ここで冒頭の話です。

  「市民も企業も行政も、それぞれの論理が異なることを理解して、落としどころを見出していくことが重要です。行政は、市民の生活や企業の活動があったうえで、それらの隙間を補いながらより良いまちづくりをすることが役割であり、そのためにみんなのプラットフォームとなることが求められています。

 長い間、行政の中にだけ身を置いていると周りが見えづらくなり、事業を推進することだけが仕事ではないかと誤解してしまいますが、むしろ周りを見回して、地域の課題を抽出・整理し、それぞれが何を求めて、何ができるのかを調整する‘まちづくりのコーディネーター’としての機能を発揮することこそが公務員に求められているのではないでしょうか。」

 

(文責 主任研究員 河北裕喜)