Part.63
Part.63 コミュニティバスの乗車体験ツアー (2019 MAR. ちもんけん VOL.104)
はじめに
高齢者ドライバーによる事故が相次ぎ、高齢者の免許返納が話題となっているところですが、昨年度、犬山市の今井小学校区コミュニティ推進協議会が、買い物や通院などの移動に苦労する、いわゆる「交通弱者」の問ををテーマに、地域の課題解決モデル事業に取り組みました。ここではその様子を紹介します。
今井小学校区コミュニティ推進協議会
今井小学校区は犬山市の東端にあり岐阜県可児市と接しています。周囲を里山に囲まれた自然豊かな農村部で、人口は681人、世帯数210世帯、高齢化率37.4%(国勢調査)で少子高齢化が進んでいます。
平成25年9月にコミュニティ推進協議会が発足し、桜の里づくり、子ども神輿、キャンドルナイトなどの多彩な活動を展開しています。
現状分析から見えてきたこと
この協議会が中心となって、「交通弱者」の問題について話し合いを始めたのですが、最初の協議の段階では、今井地区では、『困っている方の姿を見かけない。』、『何に困っているのか。』という意見が大半でした。
そこで、まずは高齢者の事情をよく知る地区の民生委員さん、サロンに集まる高齢者、実際に車を使わなくなった高齢者などに話をうかがい実態を調べることにしました。
また、中学生以上の全住民を対象としたアンケートを実施し、誰が何に困っているのかを調べました。
実態調査から分かったこと
こうした実態調査から、次のようなことが明らかとなりました。
①すでに免許返納した90歳近くの高齢者は、身内と同居または近居されており、親族の支えがあるので、問題が表面化していない。
②70・80歳代の高齢者は、不安を抱えながらも、“車がないと生活できない”ので免許返納していない。しかし、その中には「なるべくなら運転したくない」と考えている方も数多くいる。
③今井小学校区は、人口構成上60歳代がとくに多いので、これから高齢者ドライバーは急増する。また、この世代は今の90歳代の世代と違って、身近なところに頼れる身内がいない世帯も多い。
④地区内を走るコミュニティバスの利用度は低い。
コミュニティバスとしてできること~バスの乗車体験ツアー~
こうした実態調査の結果を踏まえて、協議会では地域コミュニティとして何ができるかを考えました。
その解決策として発案されたのが、『コミュニティバスの乗車体験ツアー』でした。
取組は極めてシンプルです。日程を決めて参加者を募り、みんなでバスに乗り犬山駅前で食事・買い物をして、再び今井まで戻ってくるという取組です。
日常的に自動車を運転しておられる高齢者にとってみれば、何か機会がないとバスに乗ろうとは思わないでしょう。みんなで出かけることに意味があります。
また、いざバスに乗ろうとしても乗り方が分からないと足が遠のいてしまいます。今のうちにバスの乗り方を覚えてもらうことをこの取組の一番のねらいとしました。
結果として、2月13日・20日の2回開催しましたが、すぐに定員いっぱいの応募となりました。
参加者の年齢層は70歳代後半から80歳代の高齢者で、実態調査から浮かび上がっていた、『不安を抱えながらも、“車がないと生活できない”ので免許返納していない』層に響いた取組となりました。
(文責: 主任研究員 押谷茂敏)