バックナンバー VOL.105
中小企業の魅力を発見・発信できる自社ブランド商品の開発
転換期を迎える自動車産業の下請企業
自動車産業は、今後電動化、シェアリング等が進み、大きな変革期を迎えているといわれています。当然、1次下請け、2次下請け、3次下請けといったピラミッド型産業構造も崩れることから、東海地域に集積している下請け企業が、持続的成長を維持していくためには、自社のシーズやノウハウを活かした自社ブランド商品の開発など、新たな事業領域の開拓が求められています。
成功の確率は低い自社ブランド商品の開発
この地域で脱下請けに成功した代表例が、無水鍋「バーキュラ」を生み出した愛知ドビー㈱です。鋳物部品や機械加工の下請け工場から脱却して、今やバーキュラ及び関連商品の製造・販売を専業とする会社に生まれ変わりマスコミでも度々紹介されています。しかし、こうした成功例はまれであり、実際は「1000個つくって成功は3個」と言われるほど、成功率は低いのが実態です。
昨年、下請け企業で独自のB to C向け商品開発に取り組んで話題となっている企業を幾つか取材する機会があったが、自社ブランド商品がその会社の事業の柱の一つに成長している例はわずかで、ましてや本業をしのぐまでに成長している例はみられませんでした。
開発効果①:知名度の向上と従業員の意識の変化
しかしその会社の開発ストーリーを聞くと、自社ブランド商品の開発に取り組むことによる様々な効果が見えてきます。一つは従業員の意識の変化である。下請け企業の場合、企業名が表に出ることは少なく、地元でも知名度が低い企業が多いと思われます。しかし、開発した製品がマスコミで紹介されたり、自らPRすることで、自分の会社を紹介できるという自信を持つことができるようになります。
碧南市の鋳物メーカーが開発したオリジナル商品のフライパンの商品名(おもいのフライパン)のロゴをプリントしたTシャツをつくったら、従業員がそのTシャツを着て、町へ買い物に出かけるようになったという企業もみられました。また、企業の知名度が上がったことにより、工場見学に訪れる学校が現れるようになり、将来の人材確保につながる可能性も考えられます。
開発効果②:女性の活躍
もう一つは女性の活用です。B to Cの商品を開発する場合、ユーザーの対象が女性中心になるケースが多くなるため、女性従業員が開発に参加するケースがあり、中には開発リーダーが女性のケースもみられました。また、女性の能力が発揮されるようになったことで、新規採用を女性中心の採用にシフトした企業もみられました。
開発効果③:自社技術の特徴の発掘・発揮
自社の技術を見つめ直す機会になるという効果もみられます。新商品を考える場合、ユーザーは何を求めているのかという市場のニーズから考える方法もありますが、それだけではなく、自社の技術の特徴を見つめ直してそこから可能な商品を開発する視点も重要になります。開発した商品を展示会に出品したら、そこで使った技術に注目した企業から引き合いがあり、本業の取引拡大につながった企業もみられました。
また、埋もれていた技術を発揮する機会ができ、従業員がいきいきと開発に取り組んだという企業もあり、職人のモチベーションアップになったケースもみられます。
中小企業の人材確保:企業の面白さを見せる自社ブランド商品の開発
現在は、就職は売り手市場にあることから、新卒者の多くは大手に流れて、中小企業はどこも採用ができない状態が続いています。最近は大手も中途採用を積極的に行っており、中小企業は中途採用でも難しく、人材不足が深刻な問題となっています。
中小企業が待遇面で大手企業と競争しても勝てません。また、働き方改革が叫ばれ、休みが多い企業に注目が集まりがちですが、みんながそういった企業を探しているとは限りません。中小企業がアピールできるのは、仕事のやりがいや面白さであります。そのためには、その姿をいかに見せて、伝えるのかということが重要になります。自社ブランド商品の開発は、企業の技術の特徴、面白さをわかりやすく示すことにもつながります。
新商品開発には時間と費用がかかり企業にとって大きな負担になるかもしれません。しかし、こうした視点で新商品開発に取り組む企業が増えると、興味を持つ若い人が増えて、おもしろいものづくりの地域になるのではないでしょうか。
(文責 研究理事 杉戸厚吉)