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見た・聞いた・考えた

バックナンバー VOL.103

生まれ変わる名古屋の水辺空間 「中川運河」のいま

 かつて、陸運の主役は「船」であった。東京、京都、大阪、広島、福岡をはじめ、古くから栄え、人やモノを集めた都市の多くは、水運によって発展したといっても過言ではない。水辺空間はまさに、都市にとって命脈ともいえるものである。

 この点において、名古屋という街は少々特殊である。名古屋の城下町の近辺には大規模な河川が多くはなく、名古屋城築城にあたって堀川を開削することによって、水運に対応しようとした。この堀川、新堀川と並び、名古屋を象徴する運河が、笈瀬川・中川に沿って開削され、昭和初期に完成した「中川運河」である。名古屋駅にほど近いささしまライブ24地区と名古屋港とを結ぶ中川運河は、市街地や名古屋駅と名古屋港とを直結し、産業都市名古屋の発展の礎を築いた。しかし、高度経済成長期以降、交通体系の変化に伴って運河の利用は減少していった。

 この中川運河で、水上バスの運航が始まったのは平成29年10月のことである。皆さんはご存知だろうか。「クルーズ名古屋 中川運河ライン」と名付けられたこの航路は、ささしまライブを起点とし、キャナルリゾート、みなとアクルス、名古屋港ガーデンふ頭を経由し、金城ふ頭までの約15キロを最速80分で結んでいる。沿川には、パナマ運河のような水位調整を行う中川口通船門、レトロな倉庫、巨大な名港トリトンの橋、名古屋港の工場群といった見どころも数多くある。1,000円ほどの運賃で、船の上から名古屋のまちを望むという、優雅で非日常的なクルーズを体験することができるようになった。

 こうした取組が始まったのは、平成24年に「中川運河再生計画」が策定されたことがひとつのきっかけとなっている。水運の減少といった中川運河を取り巻く社会課題を踏まえ、運河の歴史を尊重しつつ、新たに求められる価値や果たすべき役割を示したこの計画では、人と運河をつなぐ水辺空間への発展を実現する方策のひとつとして水上交通の誘導が掲げられた。また、水上交通の運航とともに、魅力ある運河景観の創出や歴史まちづくりの展開、交流・創造の場の創出にも取組むことが示されている。この計画策定から約5年の期間を経た平成29年10月、長期的な試行運行が開始された。

 また、水上交通の運航のみならず、運河周辺での作品発表やワークショップの開催といった芸術活動の振興、沿川に残る古い倉庫群の所有企業による復元(中日新聞2019年1月6日付朝刊)といった、市民や企業を巻込んだ運河の魅力を向上させる取組が広がっている。現在は試行的な段階の事業が多いものの、行政のみならず、運河沿川全体で魅力を高め、発信する方向へと大きく舵を切ったといえるだろう。

 海や河川といった水辺空間との物理的・心理的距離感の大きい名古屋という街において、中川運河や堀川といった運河は、人が集い、都市空間にうるおいを与えるオアシスとしての機能を持つことが期待される。中川運河は、名古屋という街において、きわめて貴重な都市の水辺空間であり、こうした環境や景観を活かしたまちづくりが進むことが期待される。名古屋の貴重な水辺空間を体験するきっかけとして、「クルーズ名古屋 中川ライン」に乗船してみるのはいかがだろうか。

(文責:研究員 近藤 康一郎)